高校生


夏休みも明けたまだ暑さの残る九月中旬。しかし太陽が沈む時間が段々早くなっている気がする。
そんな秋手前のことだった

「涼野先輩のことが、好きです」

南雲晴也は幼なじみであり家族である涼野風介の告白現場に立ち会わせてしまった。
LHRが終わり、掃除当番である晴也は校舎裏のごみ処理場に重いごみ箱を運ぶ途中であった
生憎晴也からは告白する少女の姿が見えず、風介の背中しか視界に入らない。
覗くのも野暮だと思うが、いつ終わるか判らない告白の為にこの重いごみ箱を持ってまた教室へ引き返すなど晴也はごめんだった。
ただでさえ残暑が根強くこの気温の中、である
晴也は比較的小柄な体を更に小さく丸めて校舎の影に隠れる
ここなら日陰な為陽射しに攻撃されることもない。
告白内容はこうだった。
少女はまだ一年生であり大会の風介の大きな活躍ではなく練習中の彼の真剣な眼差しに一目惚れしたらしい。
緊張と羞恥で震える少女の声はか細く、つい抱きしめてしまいたくなるような可愛らしいものだった
晴也はさわさわと揺れる中庭の樹を眺めながら抱え込んだ膝に顔を埋める
風介は何も言わず少女の告白を聞いていた
少女も告白が終わり風介の答えを息を呑んで待っている。
涼しい風が吹いて、樹々や髪を揺らした
風介は静かに口を開いてただ一言「すまない」と言った
少女は食い下がることなくわかりました、と言って走り去って行った。きっと泣いていただろう。
晴也はごみ箱の事などどうでもよくなっていた。
もう暑かろうが疲れようが知ったことではない、素直に教室に戻り出直そうと思った
今はどうしても風介に会いたくなかったのだ
晴也が立ち上がろうと膝から顔を上げると、ひょいと校舎の影から風介が現れた。

「…ヒッ!」
「覗きとはいい趣味だな」
「ちっげぇよ!」
「そうなのか」
「ごみ捨てに来ただけだ」

晴也は風介から顔を逸らし立ち上がる。
そして横に放置されたごみ箱をよろめきながら抱え、風介の後ろに見えるごみ処理場を目指したが、横からごみ箱を風介に奪われてしまった。

「あっ何すんだてめぇ!」
「重そうだったし、もし転んでぶちまけたら大変だろう」
「んなへましねぇよ」
「どうだか」

風介が鼻で笑う様子を忌ま忌ましく睨みつけて晴也は黙り込んだ
中学までは同じ位だった背は軽く抜かされてしまい、体格も風介の方がうんと逞しくなった
女性的だった顔は女子が黙っていない程整った風貌に成長したし、あの物腰の柔らかさは変わっていない。
モテる筈だ。晴也は小さく溜息をついた
だが晴也が風介の告白現場を目撃して憂鬱になったのはこれだけが原因ではない。
風介は晴也の背を抜かしてから妙によそよそしくなった
それまでは何をするにも一緒だった。家族だったから当たり前だが数多い兄弟の中でも得に仲が良かった筈だった
成長したら一人になりたい時間も多くなるのかもしれないが晴也にはそれが悔しかった
風介はごみ箱を軽々と持ち上げゴミを焼却炉の中へ落としていた
その様子を眺めながら晴也は口を開く

「…何でフッたんだよ可愛かったのに」
「見たのか」
「顔は見えなかったけど、可愛い感じだったじゃんか」
「まぁ…私は好きな人がいるからな」
「ふぅん……は?」
「ん?」

風介は焼却炉の蓋を閉めながらぽかんとした晴也の顔を不思議そうに見ている
晴也はごみ箱を地面に置いた風介の襟につかみ掛かった

「聞いてねぇぞ!」
「言ってないからな」
「何で言ってくんなかったんだよ!」
「何で言わななくちゃいけないんだ」

そう言われて晴也は口を閉じる。そして静かに風介の襟から手を離した
風介は襟を直し、俯いた晴也を見下ろす。
晴也は思いを上手く言葉にできない苛立ちで涙が溢れたが、風介の前で泣くことは彼のプライドが許さなかった。
晴也は風介の横にあったごみ箱を抱えて小さく礼を言って走り去ろうとした。
まるであの風介に告白した少女のように
だが風介は晴也の腕を掴んだ。晴也は反射的に振り向いてしまい、その反動で溜まっていた涙が金の瞳から零れた。
風介は柄にもなく驚きに目を丸くしていた。
晴也は顔を背けすかさず腕を乱暴に振り風介の手から逃げようとしたが風介の力は強かった
ここでまた力の差を歴然とさせる。晴也はごみ箱を抱えていた手の甲で目元を隠した

「…離せよ」
「断る」

勇気を振り絞り震えないよう呟いた言葉に風介はぴしゃりと言い返す
晴也はそれにまた涙が溢れる。こんな風介は知らない
ふざけているなら離してくれ、あの頃みたいに馬鹿にしてくれ、笑ってくれ。

どうして、そんな真剣な顔をしてるんだ。


「すまない、私の言い方が悪かった」

風介はそう言って晴也の腕から手を離す。晴也はもう逃げようとはしなかった

「嫌だったら殴ってくれ」

晴也は風介の言葉の意味を理解するのに時間がかかった
何故自分が風介を殴るのだろう確かに何度も殴りたいと思ったことはあるがどうしてこのタイミングで?
風介が近付いてくるのがわかる。気付いたら、抱きしめられていた
酷く、優しく

「…風介、お前……」


晴也は解ってしまった
風介の広い背中に緩く手を伸ばして晴也は信じられないとでもいうように、震える唇を開いた





「俺が好きなの?」





























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