昼休み、屋上のベンチに座りひとりでパンを頬張っていると後ろで重いドアが開く音がした。
振り向くと黒が立っていた。
作られた笑みを整った顔にへばり付けている。静雄は折原臨也のそれが気に食わなかった。

「今日は一人なんだね、いつもは新羅と一緒なのに」
「悪いかよ」
「そんなこと一言も言ってないじゃない」
口元は笑っているが目は笑っていない。臨也は意外とわかりやすい。それは微かな変化だが何故か静雄は気付くのだ。

「何か言うことがあって来たんじゃねーのか」

臨也は大袈裟に驚いたようにおどけて見せた。
静雄は勘が鋭い。そこがまた臨也の静雄の嫌な所だった
確かに臨也は静雄に伝えることがあって来た。しかしそれを言葉で言うつもりは到底ない
それは折原臨也という歪んだ人間のプライドが許さなかった
静雄は他人の変化には鋭いが自分へ向けられる感情には恐ろしく鈍い
自虐的に笑った臨也に静雄は眉を寄せた

「何だよ」
「うん。嫌になるよ本当」
「は、何がだよ」
「本当予想外だったなぁ。まさかさぁ」
「だから何だよ」

苛々した感情をさらけ出して静雄は立ち上がる
臨也はそんな静雄の顔を見て初めて微笑んだ
静雄が少し目を見開く
唇になにかの感触
抵抗しようとした静雄の腰に臨也の女の様な腕が回された。臨也の舌が静雄の口内をまさぐる
頬に手を当てられ頬を撫でられる。歯の裏をなぞられぞわりと鳥肌が立った
天敵の唾液の味に静雄はくらりと目眩がした
息が上がり、かくりと膝が折れる。地面に膝をついた反動で一瞬唇が離れたが直ぐに塞がれた。
涙が溢れて視界が歪む
静雄はゆるりと臨也の学ランを掴んだ。
いつの間にか口の中を蹂躙されることに静雄は何の抵抗も見せなくなっていた。
膝立ちだった静雄はついに押し倒され、両手を臨也に押さえ付けられた
臨也の指が静雄の指に絡み付き、足の間に臨也の足が入り込む。
ゆるく高ぶったそれを臨也の足が押し上げる。
静雄の体は大きく跳ねて、小さく声が上がったがそれは臨也の口の中で消えた
静雄はゆっくりと濡れた目を開く
臨也もそれに気付いたのか長い睫毛を震わせながら目を開けて漸く唇を離した
臨也の赤い目が欲情の色を見せていて静雄はたじろいだ
どうしてこの男は俺にこんなことをするのだろう。どうしてこんな顔をしているのだろう。わからない。わからない。
静雄は臨也から顔を背けて上がった息を整えてた
すると首筋に唇を押し当てられる。突然のことに静雄は声を上げた

「ばっ…な…やめっ…」
「何、今更」
「やめろ、やだって…ぁ、」

かわい、そううっとりとしたような声音で耳元に囁かれた
静雄は血が顔に集まるのを感じて、ぎゅうと目をつむる。

「なんで…」
「なぁに?」
「なんでこんな…」
「…わからない?」
「わかんねぇよ、くそ…」

返事が来ず、静雄は臨也を見上げた。
臨也は真剣な顔をして静雄をしっかりと見据えていた。
その表情だけで静雄は顔が赤くなるのを感じた。
違う。これは違う。この感情は違う。
臨也はふふ、と声を立てて笑った。そしてまた静雄に口づける
「いいよ、ゆっくりで」
「シズちゃんがちゃんと自覚してくれた時に、教えてあげる」
臨也は優しく笑って立ち上がった。
静雄も立ち上がらせて昼休み終わっちゃうねと子供のように笑って臨也は屋上から出て行った。
静雄は唇をブレザーの裾で擦り、真っ赤であろう自分の顔を俯かせた。






















(100829)
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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