胃酸が喉を焼く
嗚咽を漏らしながら静雄はフローリングへ黄色かかった透明な液をまき散らした
涙が涙腺を通して視界を歪ませる
長時間這いつくばっていたことで体を支えていた掌はフローリングの跡がくっきりと残ってしまっていた
どれだけ時間が経ったのか分らない。どれほどこの嘔吐を続けていたのかわからない。
意識が朦朧とする中、弱った化物は考える
ただはっきりしていることは、目の前の黒が赤黒く染まっているということだけであった
黒は色彩を纏っていた
静雄の知っているその男に色はなかった
自然ではありえることのない黒を形容したその男は、己の存在意義を自ら殺してしまっていた
黒に混じり赤が滴り落ちる。
静雄の胃液と赤が混じり、その光景にまた静雄はじわりと涙を浮かべたのであった
あの憎らしい赫は白く濁り、長い睫毛に覆われてどこも見据えてはいなかった
勿論、この黒が全身全霊をかけて愛し、慈しんだ人間も、生涯を尽くし憎み、恨んだ化物も
静雄はゆっくりと頭を擡げ、黒を見上げた
折原臨也はあの愛を囁き、罵倒し、人を欺き己を欺き、静雄を陥れたその口から赤を溢していた
腹の辺りは皮膚と肉と服を切り裂き、内臓が飛び出している。
薄く胃の中に何かが入っているのが確認できて、静雄はより一層吐き気を催す。
折原臨也は死んだ
あっけなく、実にあっけなくこの世から足を降ろしたのだ
嗚呼、全く穏やかな顔をして逝ったものだ
その青ざめた無機物のような死体を眺めての感想はそんなものだった
本来ならこの手でこの男を殺してしまいたかった。
自分が殺めたのなら、このような安らかな死に顔にはならないであろう
憎しみを込めた、心が楽になるような、とても愉快な死に顔で、このふざけた世に未練を残して死んでくれるであろう。
それももう叶わない。
静雄は苦しくて泣いているのか、悲しくて泣いているのかも分らなくなってしまっていた。
化物は赤が付いた刃物を握りしめて思った















夢を見た、と静雄は呟いた
どんな。隣の男は問いかける
お前を殺す夢
静雄は無表情で言う
黒は実に楽しそうに笑った。静雄も釣られて笑う。
臨也はベットに未だ寝ころぶ静雄の横に座り、痛んだ髪をなでる
「俺の死にざまはどうだった?」
「天使みてえだった」
実に簡単に静雄は言うと声を殺して笑う
臨也も楽しそうに笑う
「素晴らしいね、実に理想の最後だ。この世で一番憎い君に殺されて、天使のような顔でこの世を去る。君は絶望に打ちひしがれるのだろうね!どうしてこんな顔で死にやがるんだ、って」
「後悔はしねえよ。感無量だ」
「はは、じゃあ俺も」
君を殺す夢が見たいな、シズちゃんの死に顔なんて想像できないからさ!
そう言って臨也は静雄にキスを落とす
「嘘つけ」





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