君に
君に
優兎くんと始めて会ったのは一年生の冬。
会長が無理矢理連れてきたのだ。その理由が
「ぁ…ごめん…間違えた」
「いえ、大丈夫ですよ」
「指、鈍ってるのかな…」
「大丈夫ですよ。音楽鑑賞会までまだまだ時間はありますから」
そう。音楽鑑賞会のため。会長の思い付きなのか、何か意味があるのか。
彼のヴァイオリンを初めて聞いた時は驚いた。今まで聞いた事がないくらい綺麗な音だったからだ。
「ごめん…休憩していい?」
「はい、大分やりましたからね。お茶煎れてきます」
「あ、うん…」
本調子じゃないのだろうか。中学に入ってから弾かなくなったと彼は言っていた。
3年のブランクは大きい。
優兎くんはヴァイオリンをじっと見つめたまま動かない。
「優兎くん、お茶が入りましたよ」
コトンと優兎くんの前におけば軽く頭を下げありがとうと言う。
しばらくお茶を眺めた後、ポツリと彼は呟いた。
「颯斗くんのピアノ…悲しいね」
「えっ?」
「ピアノが泣いてる」
そんな事を言われたのは初めてだ。
泣いてるなんて。
「颯斗くんの音綺麗だから、なんか勿体ないね」
少し笑いながら言う彼に、なぜか心が揺れた。
この時から僕は彼に夢中なんです。
本番頑張りましょうね
(ミスらないように頑張る)
(間違えたら罰ゲームしますか?)
(例えば?)
(間違えた回数分あなたにキスします)
(……;;)
(冗談ですよ(笑い))
20101120