宇宙の彼
宇宙の彼
僕が宇宙飛行士になって初めて宇宙に旅立つ日の夜のこと。
「先輩、一つ聞いていいですか?」
「んー?」
ソファーに寝転び雑誌を広げている僕の愛しい恋人。
「明日僕は宇宙に旅立ちます。宇宙に行ったらすぐに帰って来れませんし、連絡もそんなにとれません」
「うーん」
「………」
雑誌を読んだまま僕に見向きもしない。
「明日から僕いないんですよ?」
「知ってる」
「この家に先輩一人で暮らす事になるんですよ?」
「わかってる」
ため息が出てしまう。この人は僕がいなくなる事を何とも思っていないのか。
「……先輩は僕がいなくなっても、寂しくもなんとも思わないですね…」
ポツリと呟いたその声は先輩の耳に届いたらしく、チラリと先輩の目が僕に向く。
「寂しくないわけないでしょ?僕そんな事思って…」
「思ってるじゃないですか!!」
「ッ…!」
「さっきから一度も僕の方を見ようともしない、質問してるのに適当に返事するだけ、僕より雑誌の方がいいんですか?!」
「ちょ、梓くん!」
喋りだしたら止まらない。今の僕には止める事なんて出来ない。
思っている事を全て話終ると先輩は小さくため息をついた。
「言いたい事はそれで全部?」
「………」
「なら次は僕ね」
手に持っていた雑誌を置きベランダのカーテンをサッと開く。
「天の川の話」
「……天の川?」
「僕が彦星だったら天の川何か飛び越えて毎日でも会いに行きますよ」
それは僕が高校の時に言った言葉。
「寂しいに決まってる。僕は梓くんがいないと生きてけないからね。でも…あんな事を言った梓くんだから大丈夫だよ」
先輩。
やっぱり僕は貴方に敵わないです。
「天の川なんてレベル越えてます。宇宙なんて飛び越えて会いに行きますよ」
大切なあなたのもとへ
(空の向こうには梓くんがいるんだね)
(はい。地球を見れば先輩がいます)
(なんか梓くんに抱かれてるみたい)
(今からします?)
(えっ…///)
(明日から出来なくなるわけですし)
(ちょっ!////降ろしてー!!////)
20110127