君はウワサの的
未来編 柊セリ 柊視点
「―――柊君、同窓会があるんだってね」
「あぁん?」
何気ない土曜日。いつものように借りて来たDVDを並んでみていると、飛鳥がそう言ってきた。
「あぁ、そういえばそんな手紙が来てたような」
「柊君、行く?」
「オマエは毎年来てないじゃねーか」
「だって、俺なんかが行くと場の雰囲気悪くなっちゃうし……」
しおしおとうなだれてしまった飛鳥を見ながら、俺はリビングから出て玄関の手紙を確認する。ポストから取り出してそのまま玄関に山積みにしていたので、目的のものはすぐに見つかった。
「―――飛鳥、これ?」
「……あ、うん。それ」
「一緒に行こうぜ。俺が行くなら行くだろ?」
「もう、何でそんなに自信満々なの?」
呆れたようにいいながらも否定しない辺り、飛鳥は可愛いと思う。本当に、恋は盲目とはよく言ったものだ。
「決まり。服は選んでやるから心配しなくていいからな」
―――そんな話をしたのが、数週間前。
俺は幹事のクラスメイトに呼び出されていたため先にきていたが、まだ飛鳥はきていないようだった。
「悪いな、手伝わせて」
「別にいいけど。いつもやってるし、気にすんなよ」
もはや幹事といってもいいほど同窓会の会計だったり集計だったりをさせられているので、本当に今更である。
別に計算は嫌いではないし、文句はないけど。
今回ばかりは、飛鳥と一緒にいたかったな、と思った。
「そういえば、今回ブスカがくるんだぜ」
「げ、まじかよ〜」
「アイツにも話題ふってやらないといけないのか〜。幹事って辛いな」
嫌そうに顔をしかめる幹事たちに、俺は内心笑ってやった。
話題をふってやるとか。優しくしてるつもりかよ。
少しでも寛大になった、大人になったと思っているのなら大間違いだ。大人のずるさで、隠すのがうまくなっただけではないか。
「正人今日ブスカが来るの知ってたか?」
「あぁ、まぁ」
毎日メールしてるし。昨日セックスして今日の昼まで一緒にいたし。
さすがにそこまで言うことはできなかったが、クラスメイトはいささか驚いたようだった。
「珍しいな、オマエブスカ大嫌いだったじゃねえかよ」
「まぁ、仕事の縁でちょっとあってな」
「モデルの?何でブスカがモデルに…」
「あれか、化粧品サンプルとかの使用前、使用後みたいなの?」
「あそこまで酷かったらどんな高級化粧品でも無理だって」
からかうように笑っているクラスメイト達を見ながら、俺は携帯で時間を確認する。
もうすぐ、集合時間だ。
飛鳥は時間をきちんと守るから、十分前には必ず集合している。
来るならそろそろだろう、と顔をあげると、クラスメイト達が驚いたように目をまるくしていた。
「――――え?」
「セリ?メンウィルの?」
「なんで…」
居酒屋の中に入ってきた飛鳥は、不安そうにあたりをキョロキョロ見まわしていた。そうして、俺と目が合うと、ぱあっと嬉しそうな顔になる。
「柊君っ!」
まっすぐに俺に向かってやってきた飛鳥に、優越感を感じる。
この笑顔も綺麗な顔も。全部俺に向いている。欲しくて欲しかったモノが、今俺のものになっていると思うと世界中に自慢したかった。
俺のところにまっすぐやってきた飛鳥は、俺の前に立つと幹事のクラスメイト達が唖然としているのにもかまわず、綺麗に笑ってこういった。
「―――芹沢飛鳥、出席でお願いします」
「え――――」
「………ブスカ?」
「うん」
クラスメイト達が絞り出した声は何とも弱弱しかったが、それにも飛鳥は恥ずかしそうに頷く。
「まるで別人じゃん…っ」
「普通に俺たちよりイケメンだし…」
「―――ダイエットしたんだよな、飛鳥」
整形、とは言わないでいた。こいつらはいくらでも飛鳥の上げ足を取りたがるだろうし、自分から言い出す必要はないと思っていたから。
「なんか、みんな固まっちゃってるね…」
「仕方ないだろ、激変したんだし」
「そっか。…でも、今日来れて嬉しいな。柊君、誘ってくれてありがとうね」
そう言って、飛鳥はどこかブスカの面影がある綺麗な笑顔で笑った。
本当に嬉しそうな、かけ値のないこの笑顔が好きだ。
整形しても、しなくても。
俺は彼以上に綺麗な人を、見たことがない。
俺は唖然とするクラスメイトに、飛鳥の肩を抱きながら誇らしげに笑っていってやった。
「―――可愛いだろ?」
―――その日の同窓会は、飛鳥の話題でもちきりだった。
綺麗になった飛鳥のアドレスを聞く奴もいたし、あれだけいじめていた相手をひたすらほめちぎる奴もいた。
嫉妬の視線の方が少なく、飛鳥は人気者でいろんなところから声がかかっていた。
でも、飛鳥は俺の傍を決して離れなくて。
可愛いから、帰ったら目一杯抱きつぶしてやろうと心に誓ってやったのであった。
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2011.9.23
I love you forever!