山ほどのありがとうを君に





―――君に何をしてあげられるんだろう。

そう考えるのは、どんな数式よりも難しい。

もうすぐ、俺たちの関係が変わって1カ月。

きっとそこまで数字を気にしているのは俺だけだ。だって、千秋は今まで通りで特に気にしている様子もなかったから。

あけすけに言えば、『俺たちの初体験記念』とかになるんだけど、俺にとって大事なのは、千秋がもう一度俺を見てくれるようになったことだから。

下世話な外聞に負けずに、何かしたいと思った。

そうして、やっぱり行きつく先はカスタードプリンなのだけど。

前日にしっかり作って、味見も万全にして、さぁ後は渡すだけっていうところまで用意した。

しかし、その安直な答えを、俺はすぐに後悔することになる。

「――――んぁ?」

間抜けな声を出した千秋の手の中にあるものに、僕は背中に雷が落ちるのを感じた。

―――カスタード、プリン……っ

一緒にお昼を食べるのが日課になった俺たち。いつものように屋上でご飯を食べようとしていると、千秋のコンビニ弁当の袋からカスタードプリンが出て来た。

……なぜ、そこまで考えなかったのだろう。

千秋はカスタードプリンが大好きだ。だから―――自分で買ってきていることもあり得るということを。

「……晴陽?」

完全に好物を作ったことが裏目に出てしまい、俺は無表情の中でも衝撃を受ける。千秋が変なものを見るような目で俺を見ていて、慌てて『何でもない』と呟いた。

「オマエなんか変じゃね?」
「へ、変じゃない」
「あっそ。…ってか相変わらず旨そうな弁当だな」
「今日はお母さんが早出だったから自分で作った」

千秋が褒めてくれて、俺は今日の朝早起きした事を誇らしく思った。保育士の母親が忙しそうにしているから自分で作っただけなのに、すごく嬉しい。

「―――あ、晴陽今日は俺の家な」
「うん」

何気ない調子で言われ、俺は少し頬を赤らめる。

家に呼ばれるということは、身体を重ねるということだ。なんだかんだで週に2、3回は行っているのだけど、未だになれないのは千秋のせいだ。
千秋があんなに色っぽいのがいけない。

その話題になっただけでその色気にあてられてしまうようになるのだから、少しは色気を抑えてほしい。

「……オマエ、今絶対変なこと考えてるだろ」
「考えてない」
「ウソツキ。オマエ無表情のくせに分かりやす過ぎるんだよ」

俺様をなめんな、とふざけたように笑われ、俺はその笑顔にすらも心臓を撃ち抜かれてしまうのだった。


―――言われた通り放課後制服を着替えて千秋の家に向かうと、千秋が露骨に嫌そうな顔をした。

制服の方がエロくて好きだ、とは言われていたけど、結局ドロドロにしてしまって次の日着れないから制服ではしないことにしていて、千秋もそれに納得していたのに。
千秋は俺をにらみながらこう言ったのだ。

「―――何で手ぶらなんだよ」
「え……」
「とぼけんな。…ったく、」

そういったかと思うと、千秋は隣の俺の家に堂々と入って行った。勝手知ったる他人の家、と言わんばかりに、俺の家の冷蔵庫を開ける。

「―――あるじゃねえかよ、プリン」
「あ……」

千秋のためにラッピングしていたプリンを冷蔵庫から取り出すと、千秋は不敵に笑った。

「オマエから甘い匂いしてたんだよな、確かにそろそろ1カ月だったな」
「覚えてたの……?」
「オマエの匂いで思い出した」
「なんかそれ犬みたい」
「うるせー。…ほら、スプーン貸せ」

千秋はそういいながら、俺に堂々とスプーンをねだる。

言われるがままに差し出し、千秋がプリンを口に含んだ時点で、もう限界だった。

―――やっと、叶えられた…

いつか食べてほしくて、ずっと練習していて良かった。今この瞬間に、涙が溢れて止まらない。

―――千秋のことは難しい。絶対大正解にはならない。

でも、千秋が助けてくれて、花丸じゃなくても丸をくれる。

バツにしてくれない、俺の気持ちを救ってくれる―――だから俺は、千秋が好きなんだ。

「…千秋、おいしい?」
「味見したんなら分かるだろうが」
「千秋もそうだったらいいなって思って」
「俺は味覚音痴じゃねえよ」
「ふふ……」

俺は、嬉しさに涙を流しながら笑った。


―――俺達の気持ちが通じて1カ月記念。



―――また俺は、千秋が好きになりました。









thanks for your love!
2011.7/23





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