跡の先に願うこと
20万打記念。柊×セリ





―――死に物狂いで好きだと言って、それを受け入れてもらえたとき。
俺は不覚にも、もう一度だけ涙を流した。



―――飛鳥を抱いた日、俺は夢を見た。

昔の懐かしい夢。

昔の夢はいつも、俺を責める。どんなに夢の中の飛鳥が笑ってくれていても、最後は涙をこらえたいつもの顔になるから。

今日もそれか、と思いながら夢の中をたどっていると、昔の飛鳥が俺の方を振り返った。

「ひ、柊君」
『―――どうした、芹沢?』
「な、なんでもないよ……っ」

放課後の裏庭。焼却炉の前なんてめったに人が来ないような場所でうろうろしている芹沢は怪しかった。

この夢には見覚えがあった。クラスが離れてしまい、ほとんど接点がなくなってしまったにもかかわらず、卒業前に偶然出会った日のことだ。

あの頃のように、芹沢を見て人知れずため息が出る。芹沢の足元は上履きのままだったのだ。

どうせ、靴を隠されて探しているところなのだろう。陰湿ないじめに内心呆れてしまった。

そのため息をどう取ったのか、芹沢はおどおどしながら続ける。

「……ごめん、いいから。僕1人にしてて」
『――――――っ!!』

あの日も、ブスカはこういった。

自信なさそうにしているくせに、俺の勘に触るようなことばかり口にするブスカが、本当に嫌いだった。

そうして、怒りにまかせて俺は怒鳴る。

『―――あぁそうかよ!余計なことして悪かったな!』
「っ」

芹沢は目の前で怒鳴られ、びくりと身体を震わせたがそれ以上何もいってくることはなかった。

そんな芹沢に背を向け、俺は大人しく裏庭から出ていく。そうして、次の日には何事もなかったかのようにクラスメイトと笑いあっていたのだ。

それが、現実だった。

――――違う……っ

本当は、分かっていた。

芹沢が俺のためを思ってそう言ってくれていたのだと。

飛鳥にも言ったことがあるが、理屈じゃないのだ。

『ブスカと仲良くしていると評価が下がる』―――それが常識で、当たり前で。

慶太のような場合が特別だっただけで、芹沢自信もそれを本当によく理解していた。まるで他人事のように冷静に受け止めていて、またそれがイラついた。

『僕1人にしてて』

それくらい理解していたからこそ、出てきた言葉だったのだ。

今だったら嫌というほど分かる、芹沢の優しさ。強がりで、平気なふりをしながら、それでもそんな言葉が出てくるのだから、本当に敵わない。

『―――っ!クソっ!』

気が付いたら、俺は走り出していた。

夢の中は走っても走っても進まなくて、気持ちばかりが焦る。

でも、夢だと分かるからこそ、芹沢にもう一度会いたかった。現実で出来なかったことを、もう一度。

「……………っ」
『――――芹沢……』

会いに戻った芹沢は、泣いていた。

俺はたまらなくなって、抱きしめる。

『怒鳴って、ごめんな……』

ずっと言いたかった、ブスカへの謝罪。

あのケーキを突っぱねられたことも、チョコレートアレルギーだと知った。それでも、俺は謝れなかった。

『お互いさまだ』なんて上から目線で謝っておいて、自分のずるさにため息が出た。

それでも、飛鳥は泣きながら笑ってくれたから。

夢の中でも何でも、芹沢にはずっと謝りたかった。

「……ち、違うんだ」
『……?』

抱き寄せた芹沢は、ゆっくりと首を振った。

思わず首をかしげていると、芹沢は顔をあげて泣きながら笑った。

『柊君が、芹沢って久々に呼んでくれて、嬉しかったんだ』

―――あぁ、俺は馬鹿だ。

夢の見せる、都合のいい幻想だ。そう分かっていても、芹沢の笑顔は、いつも俺の心を奪う。

奪って、これ以上ないくらい有頂天にするんだ。

何度も、何度だって。

「……柊君」
『芹沢…』
「柊君、おはよう」

そう言って、芹沢はもう一度笑った。

もう放課後だろうが、というツッコミもままならないまま、俺はその笑顔を最後に意識が覚醒して行くのを感じたのだった……



「―――柊君、おはよう」

―――そうして目を覚ますと、飛鳥が俺を上から見下ろしていた。飛鳥は俺の上に乗っているらしく、身体が動かない。

「…重い」
「ごめんね?呼んでも起きないからちょっと不安になっちゃって」

飛鳥はそういうと、俺の上から降りてリビングに向かってしまう。頬の腫れは少し減っていたようだったが、紫色の頬は痛々しかった。

「トーストあったから焼いちゃった。卵は半熟がいい?」
「おう」
「はーい」

そういいながらフライパンを片手に振りかえる飛鳥を、俺はそっと抱きしめた。飛鳥は突然のことに一瞬身体を固くしたが、すぐに俺の手に自分の手を重ねる。

そうして、幸せそうに笑った。

「……夢みたい」
「俺も、そう思う」
「柊君もそう思うんだね」
「当たり前だろ」

そういうと、飛鳥はそっと目を閉じて俺に身体を預けてくれる。

触れてくる体温も、受け止めてくれる優しさも、すべてが奇跡のようで。

優しい声も、何もかも。昔の自分を恥じているからこそ、誰よりも大切にしたいと思う。

消えない過去は、ずっと俺をむしばむかもしれない。いつか、隣に立つことすら苦しくなって、また飛鳥を傷つけてしまうのかもしれない。

それでも、俺は何度でも願うのだ。

―――飛鳥の笑顔を見ていたい、と。








(あとがき)
遅くなってしまいすみません…(T_T)
20万打本当にありがとうございました!

2011.11.04



戻る



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -