僕の恋の始まりは



※どうにかなりそう高校時代


「もういや……っ」

―――夕方の校舎で、僕は机に倒れかかりながらそうつぶやいた。

文化祭の準備ははかどらないし、みんな部活や塾、習い事をやっていてなかなか集まってくれない。

僕は特に放課後用事があるわけではなかったし、僕が積極的にやっていくことに異存はなかった。

でも、気が付いたら企画長みたいになってて、何もかも僕がしなくてはならなくなって、内心焦っていた。

僕は普段そんなにみんなの前に立って先導するようなタイプではないし、自分で思っているよりも企画が進んでいないのが焦りを産んでいた。

「どうしてみんな、帰っちゃうんだよぅ…」

心細くなり、なんだか涙が溢れてくる。じわりと滲んでくる涙で視界をぼやけさせていると、不意に扉がガラリと開いた。

「はーい、もう準備の時間は終了でーす。暗くなる前に帰りましょうねー」

そんな風に考えていると、全くやる気のなさそうな声が響いて、僕は慌てて起き上がった。

そこにいたのは『生徒会』の腕章をつけた湊君で、会長直々のお出ましに僕は声をあげる。

「す、すいません…っ、すぐ片付けます!」
「うん、お疲れさーん」

湊君はそういうと、そのまま教室を出て行ってしまった。他の校舎の見回りにも向かわなければいけないのだろう。忙しい人だな、とぼんやりしながら思った。

僕は湊君が居なくなると息を吐いて、のろのろと片づけを始めた。

もっと僕に、人望があればよかったのかな。

綺麗だ、可愛いともてはやされ。でも、それだけだ。

僕は、自分の顔に特別な思い入れなんてないし、綺麗だと言われれば『そうなのか』と思う位だった。

でも、どこかの歌手みたいに、みんなの心に響くような歌を歌えるとか。

アイドルみたいにみんなに元気を与えられるとか。

顔が綺麗だと言われなくてもいいから、そんな風に出来ればよかった。それなのに、こんなふうにネガティブなことばかり考えてしまうのだから、僕は平凡以下の人間なのだ。

「はい、お疲れ」

また涙が浮かびそうになった時、再び湊君が帰ってきた。

驚いて湊君をみると、カップが渡される。

「ココア、飲める?俺も手伝うから、休んでなよ」
「え……」

押し付けられるようにしてココアの入ったカップを持たされると、僕は困惑した。

でも、湊君はそれ以上何もいわずに僕がやろうとしていた片づけを始めてしまう。

「――――ちょ、いいって!僕がするから!」
「いいよ、俺も手伝う。―――頑張ってるのはみんな知ってるから。たまに甘えたってバチは当たらないさ」
「――――――っ」

言葉を失くした僕に、湊君は少しだけ優しく笑って、僕の頭をポンポン撫でた。

「みんなが部活とかで頑張ってる間も、1人で頑張ってたんだよな。いっつも残ってたから知ってるよ。そういうの、みんな尊敬してるって言ってたよ」
「どうして……」
「不本意ながら会長様だからな。よく各クラスの話を聞くんだ。ここのクラスはみんな『水脇が頑張ってくれてる』っていうんだぜ?」
「………ぅ、」

優しく言われ、もう限界だった。

堰を切ったように涙が溢れて来て、僕はココアの入ったカップを握りしめながら椅子の上に座り込んだ。

「あー、頑張ってたんだな。好きなだけ泣いとけ」

泣いちゃった、というように苦笑しながら言われ、それでも僕が泣くことを許してくれる湊君。

僕は、湊君みたいになりたかった。

さわやかで、人並みの顔立ちだけど人望もあつい。理系クラスの話は大体彼の話で、いつも楽しそうに笑っている人。

そんな人に、僕を認めてもらえて。

みんなも認めれくれていると思うと、嬉しかった。でもそれ以上に、湊君の言葉が心に染みた。

「俺もさ、やりたくてやってる生徒会長じゃないけどさ、居残ってるみんなみてるとすげーって思うよ。半端なこと出来ないな、って元気もらってるんだ。だから、今日はそのお礼。一緒にやってさっさと帰ろうぜ」

そう言って笑う彼は、夕焼けの中でとても眩しかった。

ドキドキして、涙で滲む視界を惜しむほど、彼をずっと見ていたかった。

これが恋だと気付くのに、時間はいらなかった。

高校を卒業して、奇跡的に同じ大学に入れて、僕は飛び上がるほど嬉しかったのを覚えている。

同じ高校出身だからと仲良くできて、毎日泣いてしまいそうなほどで、僕は何度も神様に感謝した。

それでも、学校生活に慣れてくるとまた距離が開いてしまって。

一度彼の隣を知ってしまうと、苦しかった。高校時代、どうしてみているだけで我慢できていたのだろう。
振られてもいいから、傍にいたい。

そう考えて、僕は彼のところへ歩き始めた。

「……うん、がんばろう」

あの人のことを思うと、胸が痛いくらいにドキドキする。あの日の、あの夕焼けの世界は、僕の恋の始まりだった。

決して色あせることのない世界を胸に抱いて、もう一度。


――――もう一度だけ、チャンスを下さい。


「―――湊君が、好きです」



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Love Love Love

May you feel happy !

2011.10.23

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