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抱きしめたい衝動と戦っていると、先輩が俺から離れたところに座りなおした。俺の変態な考えがばれてしまったのかと内心焦ったが、先輩は膝を叩くと恥ずかしそうに笑った。
「……湿気で、ちょっとぼーっとしてるなら、寝ていいよ?俺、太ってるから膝は柔らかいと思うし」
「―――――っ」
あまりの誘惑に、くらくらした。
膝枕を勧めた先輩は、相変わらず真っ赤な顔で俺を見ている。不安げに揺れる瞳が俺をまっすぐに見つめていて、俺は吸い込まれるように先輩の膝に頭を乗せた。
「…どう?寝れそう」
「すごく、いい夢が見れそうです」
「よかった」
真上から照れたように笑わ7れ、俺まで顔が赤くなってしまいそうだ。
「明日は、晴れるといいね」
「そうですね」
ごまかすように横を向いて寝転がっていると、先輩がぽつりとつぶやいた。
「…てるてる坊主増やそうかな」
「作ってたんですか?」
「あっ!いや、つ、作ってない作ってない!」
「言いなおしてももう遅いですよ」
「うぅー……」
しゅんとしてしまった先輩に、下からクスクス笑いかける。真っ赤な先輩の頬を撫でると、暖かくてとても満ち足りた気分になった。
「今度一緒に、作りましょう?雨も嫌いじゃなくなりましたけど、やっぱり外の方がいいですよね」
俺たちが出会った、大切な場所。
雨の日も、先輩が手紙をくれるなら幸せかもしれない。それでも、晴れの日の下で笑う先輩が、ずっと眩しいから。
「……うんっ」
嬉しそうに笑って頷く先輩に、俺は言いようのない充足感を感じるのだった。
それから、俺たちには約束が増えた。
雨の日は、どちらかが手紙を書くこと。
てるてる坊主を作ること。
別れ際に、明日の天気を確認しておくこと。
そして―――先輩がたまに膝枕をすること。
先輩との約束事は、これからもずっと、増えていくだろう。
約束なんて、面倒なことも多いのに。
それを楽しみにしている自分が居て、俺は小さく笑った。
―――俺は相変わらず、先輩に夢中みたいです。
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