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「―――最近水脇と仲いいな」
それから二週間。食堂で一緒に話していると、不意に三谷に言われた。
聡とはあれから急速に話す機会が増えた。学部が違うせいであまり授業が一緒になることはないが、帰るときはできる限り一緒に帰っている。
その間は大体スカイブルーの話が中心になり、俺の家の方が学校に近いこともあり、そのまま泊っていくこともざらだった。
「まぁ、そうかな。スカイブルーで話せるし」
そういうことも含めて、否定はせずに頷くと、三谷は露骨に嫌そうな顔をした。
「スカイブルーって…あのわけわからんバンド?」
「失礼な。今度メジャーデビューするんだからな」
メジャー記念のコンサートが東京であるって聞いて、聡と泊りがけで見に行くんだ。チケットも無事とれたことだし、後はホテルを予約してチケットが来るのを待つばかりである。
「あんなにやかましい音楽を水脇が聞くようには思えないけどな」
「アイツかなり詳しいぞ。インディーズの発掘が趣味らしい」
「へー」
心底どうでもよさそうな調子で返され、俺はむっとしつつもそれ以上言わないでいた。スカイブルーの魅力は分かる人にこそ分かればいいのだ。
にわかで語ってほしくない、と思うのは、やっぱり心が狭いからだろうか。
「それはそうとさ、それってやばくね?」
「何が?」
「貞操が」
三谷の言葉に、俺は飲んでいたお茶をブハッと吐きだした。
昼間の神聖な勉学の場所でなんていうことを言うのだコイツは。
「はぁ?男同士で貞操も何もないだろ」
「いや、あるって。―――水脇、オマエのこと好きだろ?」
げほげほむせながら言うと、三谷は最後だけ少し声を落としてそういった。そうして、俺はそれを聞いて言葉が出なくなる。
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