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名前なんて、つけてもらうこともなく。
『母さん』の言葉に従い、今日も歌声を届けていた。
人魚の歌声は、癒し効果があるらしい。そのため、ミックスの中でも重宝され、篤く保護されている。
人魚の血といえば不老不死の効果があるといわれているが、実際試すことは禁忌とされている。
実在せず、無理やり作られた人魚にそんな力があるわけがない、というのと、ミックスの乱獲による種の絶滅が叫ばれたからだ。
それでも乱獲が後を絶たなかったから、人魚はすべて国で保護されるのが法律で決まっていて。
誰にも手出しできない、というのが建前だったんだけど―――
「………っ」
どうして僕は、外の世界にいるのだろう。
現れた大きな男の人の小脇に抱えられ、随分と寒いところまで来てしまった。
一面白銀の世界は『雪』が織りなしているのだ、と知識では知っていても見るのは初めてで。
分かるのは、自分が随分遠くまで来たことである。
「―――よぉ、ここが北極だ。分かるか?」
ふいに、僕を抱えていた人がそう言った。
僕は言葉を発することもできず、相手を見上げる。
「そう言えばちゃんと顔見てなかったな」
見上げた僕に向かって、彼はそう言った。そうして、僕の脇に手を入れて目の高さまで持ち上げる。
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