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響いた瑞穂の声。

それと唇に当たる――ふにっとした感触。

ぐりんっと身体を方向転換されて――後ろにいたのは瑞穂。

じゃあこの柔らかいのは―――


目を開けて、今度は閉じれなくなってしまった。


目の前には、瑞穂の顔のアップ。

瑞穂にキスされている――それに気づいた途端、驚いて目が転げ落ちそうなほど目を丸くした。

そんな俺に満足したのか、瑞穂は唇を離して笑う。

「…冗談のつもりだったのに抵抗しなかったからさ、ヤキモチ妬いちゃった。伊吹に手を出すのは止めてよね」

そう言った途端、辺りがブーイングに沸いた。

テメー何瑞穂様とキスしてんだ!とか、俺へのブーイングが酷い。

だけど、俺はそれどころではなかった。

――瑞穂に、キス、された……


俺の、純情……

ファースト、キス………っ



「―――っ!瑞穂のバカヤローっ!指先にトゲさして抜けなくなれーっ!」


理解した瞬間、ぶわっと溢れてきた涙を隠すため、俺はそう捨てぜりふを残して逃走した。


―――瑞穂のバカ瑞穂のバカ瑞穂のバカーっ!


俺のことフッたくせに―――っ!


「俺の純情返せ―――っ!」


――完全防音の寮の個室で、俺の魂の叫びがこだましていた……。








「――『自分より不細工は無理』じゃなかったの?」

伊吹がそう問い掛けると、瑞穂は小さく笑った。

和樹がいなくなった食堂は騒がしく、二人の会話を聞くものはいない。

それを知っていて、瑞穂は口を開いた。

「無理だよ?あんなに意味なく幸せそうなヘラヘラ顔、簡単に振り撒かれたらむかつくじゃん。和樹はもっと、悔しそうに我慢してるほうが可愛いのに」
「………………うわぁ」
「何?伊吹、協力してくれるんでしょ?僕の初恋成就」
「そりゃあんな相手を怒らせてばっかのアプローチ見てられないし。…従兄弟のよしみで、協力するさ」


和樹くんには可哀相過ぎて同情するけどね―――そんな伊吹の呟きを聞いたものは、誰もいなかった。





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