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「……なっ!何してるんだよっ」
あまりの展開に泣きそうになりながら謝っていると、第三者の声がした。
「伊吹くんっ」
「げっ、転校生」
そこにいたのは伊吹くんで、胸倉を掴んでいた親衛隊さんは驚いて俺を下に落とした。地味に痛いって。
このメンバーを見て大体を察したらしい。伊吹くんは親衛隊さんたちに歩み寄ると口を開いた。
「昨日のことなら悔しいだろうけどさ、あんなの瑞穂の悪ふざけだって見てたなら分かるだろ?こんなことするなって」
「だが………」
「悔しい気持ちも分かる、って言ったろ?悔しいなら、その気持ちバネにして瑞穂がキスしたくなるようなイケメン目指せば?」
にっこり。そんな形容詞がピッタリな伊吹くんのエンジェルスマイルを前にして、親衛隊さんたちはすっかり気が削がれてしまったようだ。
俺に捨て台詞を残して去っていく彼らを見送ったあと、伊吹くんが俺を見る。
「……大変だったな。和樹くんも」
「でも、伊吹くん来てくれたし…あの、ありがとう」
嬉しくて伊吹くんに礼を言うと、伊吹くんはおかしそうに笑った。
「あんなの普通だよ。それより、伊吹ってよんでくれていいんだぜ?」
「それだったら伊吹くんだって、和樹くんって」
「ほらまた」
「あっ」
指摘されて、カーッと顔が熱くなる。
伊吹くんはそんな俺に向かって笑いながら言った。
「じゃあ伊吹、ってよんでくれたら和樹って呼ぶよ。俺が好きなら早く呼べるようになって仲良くならないとな?」
「あ…………っ」
そうだった。俺は伊吹くんが好きになっている設定だった。
そう、設定だったんだ。
…でも俺、普通に伊吹くん好きかも……っ
優しくて、キラキラしてて。恋愛感情かはわからないが惹かれているのは間違いないのだ。
「――うんっ!頑張るっ」
相変わらず顔が熱かったけど、俺は頷いて立ち上がった。
「じゃあ先に行くな。ありがとう、伊吹っ」
助けてくれて、うれしかったな。
伊吹くんのこと、もっと知りたい。
昨日の出来事が嘘のように、俺は笑顔で教室に戻っていったのだった…
「―――うん、あれは可愛いな…できれば振り撒かせたくない」
だから、伊吹くんのそんな呟きは、俺には届かなかったのだった……
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