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「……どうですか?」
「いい!すっごく似合ってる!」
思わず興奮しながらそういうと、ナオ君ははにかんだように笑った。
「髪の毛染めるのなんて初めてです」
「ヘアスプレーだしね。二週間ぐらいでとれるけど、決心ついたら今度は染めさせてね」
「考えときます」
美容師さんもナオ君を褒めながら誇らしそうに笑った。以前のナオ君を知っている人から見たら、確かにこれはすごい変化かもしれない。
短時間でそれをやってのける美容師さんもすごいな、と思った。
「じゃ、帰ろうか」
「はい」
美容師さんに見送られて店を出ると、俺たちは繁華街に向かって歩き始めた。
「うぅ、まだ少し落ち着かないです。髪の毛がスースーします…」
「結構切ってたもんね。でもすぐになれるよ。慶太の反応が楽しみだね」
「………っ!」
そういうと、ナオ君はポッと頬を赤くした。
巻いていたマフラーを引き上げるようにして顔を隠そうとしているが、それが寒さのせいではないのは一目瞭然だ。
「……変に思われたら、嫌だな」
「なんで?絶対似合ってるって褒めるよ。褒めなかったらセンスないんだって」
「だといいですけど」
まだどこか不安そうなナオ君を元気づけようと頭を撫でようとして、やめた。せっかくセットしてもらったのに、髪型が台無しになってしまう。
「映画、楽しみだね」
「はい。近くにおいしいカフェがあるんで、そこでランチにしません?」
「賛成。二人にもそう言わなきゃ」
繁華街を抜けながら、ナオ君とたわいない話をして歩く。
だけど、ナオ君の元気が少しないような気がして。
でも、それを聞くのがためらわれてしまって。
慶太の話が出てから元気がなくなってしまったナオ君。満足にアドバイスできる自信もないのに、不用意に聞いてしまうのはいけない気がした。
だから祈るのは、早く元気になってくれることで。
言葉の通り、映画が楽しくなってナオ君を元気にしてくれればいい。
そんなことを思いながら、冷え込んだ夜空を眺めたのだった。
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