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「―――セリさん!」
「ナオ君お待たせ」
「いえ、大丈夫ですよ」
にっこり笑うナオ君に、俺もふっと笑顔になった。
結局作業に熱中し過ぎるあまり、スタジオよりも遅く解散になってしまったのだ。外はすでに暗くなっていて、慌ててトレンチコートを着込んでナオ君の隣を歩く。
「今日はどうしたの?何か買い物したい?」
「それもそうですけど…あの、美容室行きたいんです」
意外だった。
それがすぐに顔に出ていたんだろう。ナオ君は苦笑しながらも続けた。
「今度、4人で映画に行くでしょう?俺ばっかり貧相なのは仕方ないけど、さすがに連れて歩く皆さんに申し訳ないなって…だからせめて、髪の毛だけでも弄ろうかなと」
「そんなことみんな気にしないけどな……」
「俺と、一般の人はみんな気にするんです。じゃ、スタイリストさんの知り合いのお店に予約してもらったんで行きましょう?」
「うん」
ナオ君は白い息を吐きながら、少しだけ楽しそうな足取りで歩き始めた。隠し切れていない辺りがナオ君らしくて、可愛いなと素直に思う。
「ふふ、可愛い」
「……笑わないでくださいよ。予約するような美容室行くの初めてなんですから」
「え、そうなの?」
「はい、基本は近所の安い店です」
常連過ぎてシャンプーサービスしてもらえるんですよ、と誇らしげに笑われ、俺も笑って返した。
ナオ君らしいと言えばナオ君らしいかもしれない。
「じゃあ、今日初体験だね。…ここ?」
「はい」
連れていかれた店は、俺もスタイリストさんに勧められた美容室だった。紹介状だけもらっていかなかったことを話すと、ナオ君が呆れたようにため息をつく。
「もう、年を取ったら苦労するんですからね?」
「そうかもね」
「いらっしゃいませー」
そんなことを話しながら店に入ると、すぐに店員さんが出迎えてくれる。そうしてナオ君をお願いすると、俺はそのまま控えのソファーで雑誌を見ながら待つことにした。
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