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「……辛いなら、我慢しなければいいんだ」

俺の視線を柊君が読みとったように、柊君の視線の意味を俺はしっかりと受け取った。
俺から求めさせたいんだ。

無意識に我慢している俺をさらけ出させようと、俺から望みを言わせようとしているのだ。

「……んっ、ひい、らぎく…っ」
「ほら、どうした?」
「はぁ……っ」

一瞬強く扱かれ、急な刺激に悩ましい声が出る。自分の声とは思えないくらいに感じ入った甘い声が出て、ますます理性が崩壊していくようだった。

「ほら―――『飛鳥』」

「……………っ、」

その瞬間、堰を切ったように涙が溢れた。

俺の頬を伝って、ソファーに一粒、また一粒と染みを作っていく。

「……うっ、うぅっ」

顔を両手でおさえこむようにしても、涙は止まってくれない。

止めなきゃ、と働く理性と同時に、俺は気づいてしまった。

――――俺は、寂しいんだ。

食べられないのは、辛いのは。

自分の失恋を嘆いているからではない。

慶太の優しさが、もう二度と俺の方を向かないことが分かって寂しいんだ。

辛かった高校時代、ずっと支えてくれたのは慶太だった。いつだって傍にいて、笑って頷いてくれていた。

それなのに、今は冷たい視線ばかりを向けられて―――

たった一人に嫌われてしまったことが、世界中の人に嫌われてしまったかのように辛くて寂しい。

それくらい、『僕』には絶対的な存在だった慶太。

もう一度あえて嬉しいのに―――こんなにも寂しい。

「―――オマエ、こんなことで泣くんだな」

頭を撫でながら言われ、俺は柊君に縋りついた。自分から柊君の首に腕を絡めると、顔が見えないようにギュッとしがみつく。

泣いてしまったのは、昔の感覚に戻ったからだ。

『飛鳥』って本名で呼んでいたのは、慶太だけで。今は『セリ』の方が多くて、ぞれが自然だったけど。

もう一度呼び覚まされた『僕』が、寂しいって全身で訴えてくるんだ―――

「……ひいら、ぎっ、くん」
「そうだな。辛かったな」
「俺…もう、昔みたいに、友達に戻ることも、叶わないのかなっ。また、たわいない話で笑ったり、できるようにならないのかな…っ」
「―――それは、泣いてすっきりしてから考えればいい」

今は泣け、と、柊君の手が俺の背中を撫でる。さっきと違って宥めるような動きが優しくて、涙は溢れて止まらなかった。





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