3
まったくもってその通りで、俺は笑うしか無かった。
姿が変わったとはいえ、俺にファッション性は皆無で、帰宅時にスタイリストさんにいつもコーディネートして貰っている。
そしてそれを買い取る…というモデルらしからぬ状態だが、現在メンズ雑誌を買いあさって勉強中なので見逃して欲しい。
「でもセリちゃん羨ましいわ。ポラ写りがいいって皆絶賛なんだから」
「そんなことありませんよ」
「本当。新人の中じゃピカイチってスタッフの中で噂なんだから。すぐにコラボとか広告のオファーとか来ちゃうよ」
「まさかそんな」
幾分力強く語るメイクさんに、俺は苦笑する。
モデルになれてきたのもつい最近で、そういった話は未だに絵空事のようだ。
控室の扉を開けて、メイクさんを招き入れると、さらに感嘆の息が上がる。
「それにセリちゃん優しいしね。……ありがとう、今晩ご飯でも食べにいきましょうよ」
「……すいません、今日は用事でして」
さりげないお誘いはやんわりと断る術を覚えた。
最初の頃は断り切れず、メイクさん、スタイリストさん、カメラマンさんと代わる代わる誘われ、二日酔いに悩まされたものだ。
「あら残念。じゃあメイク落とすねー」
「はい」
そんなことを考えながら、俺はメイクさんの言葉に従ってゆっくり目を閉じたのだった……
[ 5/140 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
TOP