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Side 柊



―――結局、卒業まで一度も心が落ち着くことはなかった。

クラスが変わっても、アイツの噂はどこまでも俺を追ってくる。過去のクラスメイト達が『こうしてやったよ』といじめの報告を誇らしげに語ってくるのを聞くたび、俺は耳をふさぎたくなった。

俺に、褒めてほしいのか。俺に好かれたいのか。

そのために、アイツを利用するのか―――

いじめの話を聞くたび、中里のところへ向かう背中が、ますます遠く感じて。

顔を見て挨拶を出来ていたのは、いつの話だろう。今は、正面から顔を見ただけで心が落ち着かない。

廊下ですれ違う時、俺を見かけると顔を伏せるのがイラつく。

「―――よぉ、ブスカ。相変わらず根暗で性格悪そうだな」
「………っ」
「無視かよ。最低だな、オマエ嫌われてもしょうがないよ」

イラつくから、毒を吐く。

ただの悪口に、俺はどんな返事を期待していたのだろう。アイツの性格からして、嫌味を嫌味で返すなんてこと、するわけないのに。

それがまた噂で駆け巡り、俺に人が群がる悪循環。分かっていても、イライラは止まらないし、止め方なんて分からなかった。

そうして、ついに関係を修復できないまま卒業式がやってきて。

「―――――っ」

下駄箱に入った芹沢からの手紙に、俺は言葉を失った。後輩が喧嘩をしている喧騒の中、震える手で手紙を抜き取る。

「―――喧嘩、あの中里らしいぜ!」
「じゃ、関係ないな。帰ろうか」
「…何か、正人、中里には冷たいんだな。クラスでカラオケ行くから家帰って着替えたらメールしろよな?」
「分かった」

クラスメイトを適当にあしらって、俺は急いで家に帰った。

あの芹沢からの、手紙。

こっそり忍ばせたブレザーのポケットが、そこだけ熱を持っている気がする。心がざわざわして、中身が気になってしょうがない。

どんな恨みごとでもかまわなかった。

芹沢が、卒業の日に俺に手紙をくれた。その事実が、心を落ち着かせなくする。

正面から見てくれなくったって、顔を背けられたって。

俺に、何かメッセージを残してくれた―――

急いで家に帰ると、部屋に鍵をかけて1人っきりになる。ポケットから手紙を取り出すと、俺は深呼吸をして手紙を開いた。





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