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それをきいて、俺は目を見開いた。
―――勝手だけど、俺の心に生まれたのは、醜い嫉妬だった。
柊先輩が激昂していた理由が、今なら分かる。
誰のものでもなかった先輩が、どこか遠くに行ってしまう。それも、俺の手の届かないところに。
それを想像しただけで、こんなにもイラつく。
俺ではなく、他の誰かに真っ先に見つけられ、そうしていなくなってしまう。
ずっと一緒にいたのは、俺なのに――――!
「―――あんな不細工で気持ち悪いヤツ、誰が相手にするかよ」
見苦しい嫉妬が生んだ、醜い言葉。
そのまま幻滅してくれればいい。俺は優しくしていた傍らでこんなことを考えていた、最低な奴なのだと。
そうして、俺を解放してほしい。
あの人を、今すぐにでも追いかけさせて欲しい―――
「だよな、あんな先輩、いなくなって清々する」
――――え?
歪んだ笑みとともにいった言葉に、同意の言葉が返ってきて俺は訳が分からなくなった。そんな俺にかまわず、友人はさらに続ける。
「みんな言ってたぜ?釣り合ってないし、後輩の金魚のフンやってるやつなんかかまってやる価値ないって。だからさ、なんとかオマエから引き離そうと俺たち頑張ってたんだ」
―――あぁ、そうか。
笑顔を奪っていたのは、元気を失くさせていたのは。
他でもない、俺のおせっかいだったのか―――
「………はは、そうか」
「な?これでオマエも自由の身じゃん?これからも俺たちと仲良くやろうぜ」
「――――――っ」
バキィ!とひどい音がして、俺の拳が友人の頬にめり込んだ。そのまま友人は倒れ込み、俺はそいつにまたがるようにしてさらに拳を振り下ろす。
「うわぁ!た、助けて―――っ!」
悲鳴を上げる友人に、俺はひたすら拳を振り下ろした。
俺は、何のために殴っているのだろう。
傷ついた先輩のため?信じていた自分を裏切られたから?
違う、違う―――
あの笑顔が、もっと欲しくて。
俺に向いて欲しくて。あわよくば独り占めしたくて。
独占欲をちょっと我慢すればいいだけだ、とタカをくくった結果がこれだ。俺のおせっかいが、先輩の心を傷つけ。
そうして、俺は嫉妬から、とんでもない裏切りの言葉を吐いてしまった。
「畜生、畜生――――っ!!」
声にならない叫びは、やってきた先生に取り押さえられてなかったことにされる。
そうして、俺は二週間の謹慎を食らった。
家から出ることもままならず、気が付いたら先輩はもういなくなっていて、俺たちの絆は完全に途切れてしまったことを知った。
涙なんて、出るはずもなく。
だけど、先輩のいない学校が、ひどく空虚なものだということだけは嫌というほどわかった―――
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