14
Side 慶太
「――――あの、今日飛鳥先輩来てないんですか?」
―――その日は、何となく嫌な日だった。
昼休みになっても先輩が来なくて、おかしいと思ったんだ。
最近では一緒にいるのが当たり前すぎて、昼休みに彼がいないだけでこんなに違和感に支配される。
何となく気分が悪くて、俺は嫌なのを我慢して二年の教室に向かった。
あそこは嫌な気分になる。先輩があの空間の中で息を吸って、じっと耐えているのだと思うと抱きしめたくなった。
あんな悪意まみれの空間、一瞬でも早く立ち去ってしまいたい。
表面上は仲が良いように見えるからもっとタチが悪い。グループの中で1人がいなければ1人の悪口で盛り上がる、それが当然なのだから。
善意も、悪意もごちゃごちゃで。それが一番人間くさいのかもしれないけど、なんだか先輩に出会う前の感覚に戻ってしまいそうで怖かった。
「柊先輩、」
前回も話した、先輩と同じクラスの先輩がいて、俺は思わず彼に声をかけた。
声をかけて―――戦慄した。
「あぁ、中里じゃん」
先輩は、まるで別人のようだった。
表面上には笑顔を浮かべて、取り繕うのがうまいけれど。
俺を見た瞬間先輩に宿った感情は―――嫉妬だった。
他の人には見せないくせに、俺には全身でそれを表現してくる。誰にでも笑顔を浮かべる綺麗な瞳の中に、黒い感情を感じて俺は寒気を感じた。
そして、それが純粋に黒いからもっとタチが悪い。
「飛鳥先輩…来てないんですか?」
「あぁ、ブスカなら来てないよ」
それでも、なんとか先輩の情報を聞きたくて柊先輩に話しかけると、先輩はそっけなく答えた。
その瞬間、嫉妬の視線が強くなる。
「……何が、あったんですか」
疑惑ではない、確信だ。
この人と、飛鳥先輩に何かあったんだ。
だから、先輩がいなくて、この人はこんなに冷たくなってしまった。
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