12
―――なぜ、芹沢は受け取ると思っていたのだろう。
優しくしてやったとか。
そんな見下した考えでいたのなら、いじめをしていたヤツと同じだ。
口にだすかださないかの違いだけで。
「見ているだけも、立派ないじめ」とは良く言ったものである。
芹沢は、俺達の器を映す鏡で。
――俺は、俺が思っているほど善良な人間ではないと気付かされて。
人見知りで、人に挨拶ができないほど自信を無くしていた芹沢が、俺には自分から挨拶をしてきてくれていた。
その意味を、軽視し過ぎていた。
ニセモノの優しさにも、芹沢は確かに信頼を返してくれていたのに。
それすら、自分で壊した。
「――よ、言うじゃん」
「見ててスカッとしたし」
「最近ブスカ調子乗ってたもんな。お前言って正解だよ」
明らかに間違えた俺を、褒めたたえるクラスメイト。
狡い俺に、相応しい人間が集まるのは、必然なのかもしれない。
狡くて、自分は差し出さないクセにひたすら欲しがる。
そうして、手に入らないものがあることにも、気づいてしまった。
「―――畜生……ッ」
叫び出したい。
誰か、俺を責めればいいのに。
どうしても俺のものに出来ないと分かっても、誰かの物になるのはこんなに悔しい。
もういい子のフリはやめだ。
独り占めだってしたいし、ほんの一瞬じゃ我慢できない。
俺に向かないなら、誰にも向かないで欲しい。
中里になんかやるものか。俺のものにならない笑顔など、俺が消してやる。
そう考えて、心が落ち着くなんて。
隠しきれない黒い感情が混ざり合い、引きはがせなくなっていく。
―――あぁ、俺は本当に、ただのいい子なんかではなく、歪んでいる。
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