11
「―――なぁケーキ好きなんだろ?これ食べないか?」
黒い感情を自覚して、俺はすごく姑息な手を打った。
自分にも、あの笑顔を向けてほしい。
誰かのものだなんて許せない。独り占めしたいなんて言わないから、たった一瞬でもいいんだ。
この時の俺には、芹沢は断らないという自信があった。
俺はいじめに荷担していた訳ではないし、毎日挨拶もしている。
ほかのクラスメイトの誰より、芹沢に優しくしてやっているつもりだったのだ。
――それなのに。
「―――ごめん。いらない」
ふるふると、頑なに首を横に振る芹沢に、俺は目の前が真っ赤になった。
なぜ、どうして。
俺はダメなんだ。
なんで、アイツだけにしか、笑ってくれないんだ―――
「―――んだよ、ちょっと優しくされたからって調子乗ってんじゃねーよ」
衝動だった。
ケーキを投げつけたと同時に出たのは、黒い感情の塊で。
「―――あ」
次に感じたのは、絶望だった。
俺は今、何と言った?
絶対に悪口を言わないでいよう、そんな誓いは、跡形もなく崩れ去り。
俺は今、まさにひどい言葉を投げつけた。
目の前にいる芹沢の顔を見ることができない。
隠して、見ないようにしていたものが、憧れの存在を傷つけた。
「………芹沢、」
芹沢を見れば、泣きそうな顔で、投げつけたケーキを拾っていた。
その姿にまた黒い感情が沸き上がり、イライラが止まらなくて、泣きたくなった。
その瞬間、あぁ、もうだめだ。とも感じてしまう。
芹沢は、俺の期待を裏切り、希望通りに動いてくれなかった。
俺は、芹沢から今まで勝ち取っていた信頼を、台なしにした。
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