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「―――なぁケーキ好きなんだろ?これ食べないか?」


黒い感情を自覚して、俺はすごく姑息な手を打った。

自分にも、あの笑顔を向けてほしい。

誰かのものだなんて許せない。独り占めしたいなんて言わないから、たった一瞬でもいいんだ。


この時の俺には、芹沢は断らないという自信があった。

俺はいじめに荷担していた訳ではないし、毎日挨拶もしている。

ほかのクラスメイトの誰より、芹沢に優しくしてやっているつもりだったのだ。

――それなのに。

「―――ごめん。いらない」

ふるふると、頑なに首を横に振る芹沢に、俺は目の前が真っ赤になった。

なぜ、どうして。

俺はダメなんだ。

なんで、アイツだけにしか、笑ってくれないんだ―――


「―――んだよ、ちょっと優しくされたからって調子乗ってんじゃねーよ」

衝動だった。

ケーキを投げつけたと同時に出たのは、黒い感情の塊で。

「―――あ」

次に感じたのは、絶望だった。

俺は今、何と言った?

絶対に悪口を言わないでいよう、そんな誓いは、跡形もなく崩れ去り。

俺は今、まさにひどい言葉を投げつけた。

目の前にいる芹沢の顔を見ることができない。

隠して、見ないようにしていたものが、憧れの存在を傷つけた。

「………芹沢、」


芹沢を見れば、泣きそうな顔で、投げつけたケーキを拾っていた。

その姿にまた黒い感情が沸き上がり、イライラが止まらなくて、泣きたくなった。

その瞬間、あぁ、もうだめだ。とも感じてしまう。

芹沢は、俺の期待を裏切り、希望通りに動いてくれなかった。

俺は、芹沢から今まで勝ち取っていた信頼を、台なしにした。





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