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side 柊




―――恵まれているのに、さらに何かを望むことは罪だろうか。

「お、おはよう柊君」
「あぁ、芹沢もおはよう」
「うん」

芹沢は最近明るくなった、と思う。

他の奴らは気づいてないかもしれないけれど、挨拶の時に笑顔が柔らかくなった。前はもっと緊張とか、不安とかが見え隠れしていたけど、今はのびのびしている感じがする。

それは、俺が与えたものではないと気付いているけど。

芹沢は、昼休みに必ずどこかに行ってしまう。

箱をいつも抱えているから、誰かにプレゼントしているのかもしれない。

はたから見たらそれはただ下僕がモノを貢いでいるようにしか見えないのだが、とても幸せそうなその姿が眩しかった。

そんな芹沢が、うらやましいとか。

俺が望むことではないのだろう。容姿に恵まれ、友達に囲まれ、芹沢が持っていないものをたくさん持っている俺がそういうことを望むのを、『傲慢だ』と表現する人もいるかもしれない。

でも、今の俺には、芹沢の笑顔が欲しかった。

誰にも優しくされない。それどころか、一歩間違えば不登校になってしまいそうな、そんなぎりぎりのいじめを受けている。

酷いいじめをされていると知っていて助けない俺も、教育委員会様に言わせればいじめの犯人になるらしい。

そんなことはどうでもいいが、やはりみていて気持ちのいいものではなく。

友達の誰かが芹沢の悪口を言うたび、不快な気分になることもあった。いちおう『友人』だから言わないでいたが、芹沢を通せば人の器が知れるようなものである。

だから、俺は芹沢には絶対悪口を言わないでいようと思った。

容姿さえ考えなければ、本当はとてもいい奴だと思う。

挨拶もためらうほど自分に自信を失くしてしまっているが、芹沢の笑顔は本当に嬉しそうに笑っていて、よっぽどみていて清々しい。

どんなに酷いいじめを受けても、ささやかな幸せに誰よりも綺麗に笑える。
そんなこと、俺にできるだろうか。

俺のまわりには友人がいて、笑いあえる仲間がいて、時々トラブルもあるけどずっと楽しい。だけど、時々なぜか無性に叫びだしたくなるのだ。

俺が本気で幸せを感じて笑ったのは、いつだ?俺は、本当にうまく笑えているのか?

心と表情が一致しないジレンマに、ますます理想から遠ざかる悪循環。笑顔の下でこんな馬鹿なことを考えているなんて、クラスメイトの誰が考えるだろう。

今の俺と芹沢の状況を見れば、皆が皆俺の立場を望むだろう。俺が芹沢の立場を望むこと自体が『傲慢』なのかもしれない。

だけど、俺には芹沢の笑顔が一番魅力的に映るのだ。





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