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言っていることがむちゃくちゃだ。だけど、俺は怒りにまかせて叫ぶ。
利用してやってもいいとか、たまには助けてやってもいいとか。
そんな、ずるいことばかり考える俺に、先輩の考えることなんて分からない。この優しさが、こんなに痛いものだなんて思わなかった。
優しくされるたび、自分の醜さを思い知る。
思い知らされて、自分の良心が俺の心を突き刺す。
急にキレた俺に、先輩は戸惑っているようだった。でも、恐る恐る口を開くと、ゆっくり話し始める。
「…慶太が頼りないんじゃないよ。あれは、僕の問題だから」
そう言われ、俺は目をまるくした。
自分の問題だから。自分で解決する。
それは、言ってしまえば当然なのかもしれない。
誰かに甘えることは簡単でも、それをよしとしないのは、先輩のちっぽけなプライドかもしれない。
だけど、俺にも分かるくらい単純明快で、自分がから回っていたのが分かってなんだか笑いだしたくなってしまった。
「っははっ、そうか…っ」
先輩は、俺よりずっと強いんだ。
柔らかそうなまるい身体の中に、実はすごく芯の固い意志を持っているのだ。
「先輩って、桃みたいだ」
「え、桃食べたいの?」
「そうかも。明日は桃のお菓子がいいな」
俺よりずっと強いから。眩しいんだ。
見下しながら、どこか心地いのも、『助けてやってもいいかな』なんて思っちゃうのも、先輩の心が綺麗だからだ。
「先輩、先輩は俺が出会った中で、一番綺麗だよ」
俺が落としてしまったケーキを拾う先輩にそういうと、先輩は驚いたように目をまるくした。
「……お世辞はいいよ」
「お世辞じゃない」
「嘘だ」
「嘘じゃない」
「じゃあ……っ」
そういうと、先輩は何も言わなくなってしまった。不思議に思って先輩の前にしゃがみこむ。そうして顔をのぞき込んで、俺は驚いた。
先輩は、ぽろぽろ涙をこぼしていたから。
「…じゃあ、すごく嬉しい………っ」
―――あぁ、俺、この人が好きだな。
泣きながら笑う先輩を見て、素直に、そう思った。
抱きしめてあげたい。守ってあげたい。先輩が望んでなくても、先輩を幸せにしてあげたい。
俺は泣き崩れる先輩を、そっと抱きしめた。
俺の体温が、先輩の心ごと温めてあげられればいいな。
なんて思いながら。
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