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それが変わったのは、先輩と知り合って一カ月くらいだっただろうか。

ついに、いわゆるいじめ現場を見かけてしまったのだ。

人気のない特別教室。移動教室で二年生の教室がある階を通った時だった。

数人に取り囲まれた先輩は、うつむきながらも言われる悪口にずっと耐えている。時々ドンっとまるい身体を押されたり、見えないところに拳が入れられているのも見えた。

内心、あーあ、と思いつつも、どうしようか迷っていた。

気分がいいものではないが、わざわざ助けに行ってやるつもりもなかった。

だけど、ふと顔をあげた先輩と、扉越しに目があって。

驚いたように小さい目がまるくなったから、絶対気付いただろう。先輩がもしも俺に助けを求めるなら、しょうがないけど行ってやらなきゃ。

しかし、先輩は俺に助けを求めるなんてしなかった。

ふっと視線をそらすと、何事もなかったかのように二年生たちの暴力に耐えている。

だんだんエスカレートしてきて、酷い蹴りがみぞおちに決まっても、絶対に悲鳴をあげたりしなかった。それどころか、ちらりと俺を見ると、『逃げろ』と視線で促してくる。

―――何だよ、それ。

矛盾しているけど、正直ムカついた。

危険なのは先輩だけなんだよ。何でそんなに悲劇のヒーローしてる訳?

助けを求めればいいじゃん。利用すればいいじゃん、利用されてるんだから。

なんかそれじゃ、俺ばっかりずるいやつじゃねえか―――

「………慶太?」
「触るんじゃねえよ」

昼休みになっても、イライラが消えなくて、ケーキを差し出す先輩の腕を振り払う。

一生懸命作った、大好きなケーキがぐしゃっと音を立てて潰れたのを見て、先輩は傷ついたような顔をした。

やめろ、そんな顔するな。

何で俺が、罪悪感なんて感じなきゃいけないんだ。

今まで散々利用されてきたんだ。自分も利用して何がいけないんだ。

利用されるだけされて、自分は見返りを求めないなんて聖人君子になったつもりかよ。

「先輩、さっきの休み時間俺に気づいてただろ。何で俺に助け求めなかったの?俺ってそんなに信用ないわけ?」
「え………っ」
「とぼけてんじゃねえよ。傷つくのは自分だけでいいとか、そんな甘っちょろいこと考えてたわけ?」
「僕は、そんなつもりじゃ……」
「じゃあどういうつもりだったんだよ!理由によっては許さねえからな!」





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