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side 慶太
「―――はい、今日はロールケーキね」
―――目の前には、馬鹿面でケーキを俺に差し出す不細工、もとい先輩。
飛鳥先輩は学校では1、2を争う不細工で、逆の意味で噂の中心人物だった。いじめられているというのも、一年の方にまで噂になっている。
「ありがとうございます」
だけど、俺は張り付けた頬笑みで彼からケーキを受け取る。
俺が彼といるのは、同情とかじゃない。単純に自分のためだ。
俺は、自分の顔が嫌いだ。
顔だけで評価されて、寄ってくるような人ばかりで、本当に碌な目に合わない。
『友達になろう。アドレス教えて?』
―――下心見え見えなんだよブス。誰がオマエなんかと付き合うか。
『中里ってさ、家金持なのな。じゃーゲームとかあるわけ?』
―――それを教える義理はねえよ。友達面してんじゃねえ。
そんな風に、すっかりひねくれてしまった俺は1人の方がずっと心地よかった。
それなのに、1人でいても俺を見ている視線は消えなくて。
変に目立つから、どこにいても何をしていても噂になる。俺だってゲーセンに行くし、買い物もする。それの何がおかしいんだと何度叫びたくなっただろう。
感じる視線に、押しつぶされそうになってもう限界だった。
そんなとき、飛鳥先輩にあった。
不細工で、誰もが視線をそらす存在。そんな存在で、俺は『使える』と確信した。
彼と一緒にいれば、俺の評価が下がるのではないか。
変な話だが、評価が下がってしまえば、飽きられてしまえば、俺はこの視線から解放される。『大したことなかった』って思われれば、俺は自由になるのだ。
俺だって、大した人間じゃないのだ。それなのに持ち上げたりなんかする奴らに、現実を見せてやればいい。
そんな風に考えて、今に至る。
一緒にいることで、俺には評価が下がる以外の変化はない。あるとしたらこの先輩の方だ。
俺と一緒にいることで嫉妬の視線にさらされるわけだし、今まで以上にいじめがひどくなるだろう。
だけど、別にかまわなかった。どうせ不登校寸前まで追いやられているのだし、来なくなったところで関係ない。
ケーキだって特別好きなわけではないし。
先輩が控え目で、空気が読めて、奥ゆかしい優しさが心地よかったのは意外だったけど。
不細工だし、嫌われているのだから性格も酷いもんかと思ったら、そうでもなかった。
そして、袖の下から見えるまるい身体にあざが増えていくのを見て、いい気分がするほど俺は鬼ではなかった。
もし万が一助けてと言われたら、助けてやってもいいかな。
それくらいの、存在だった。
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