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僕は持ってきていたベイクドチーズケーキを中里に差し出した。昨日の晩に焼いて、今日の朝ちゃんと味見したからまずくは無いはずだ。

中里は僕とケーキを交互に見比べると、相変わらずの無表情でケーキを受け取ってくれた。

たっぷりといれていた保冷剤をよけると、チーズケーキを取り出して一口食べてくれた。

「……先輩が焼いたんだ」
「う、うん。変かな?」
「いや、おいしいよ」

そう言って、中里は小さく笑ってくれた。

ほんのちょっと頬をあげただけだけど、それだけで僕は嬉しくなって、大きく頷いて『ありがとう』と笑った。

「先輩お菓子作るの好きなの?」
「うん、自分で作った方が安くてたくさん食べられるし」
「うん、好きそうな見た目してるしね」

遠まわしに太っているってことだよね、それ。

「良かったら、俺にもそれわけてよ」

僕がふてくされようとしていると、中里はそれを見越して先にそう言ってきた。驚いて中里を見ると、また薄くほほ笑んでくれる。

「俺、昼休みとか大体ここにいるから」

会いに来て、といわれ、僕は不覚にも泣きそうになった。

僕が傍にいること、許してくれるんだ。

勇気を出してよかった。ありがとうの気持ちを伝えられるだけで十分だったのに。神様はこんないいことを用意してくれていた。

「……うんっ、明日も楽しみにしとけよ」

とびきりおいしいの作ってくるから。そういうと、中里は優しく笑ってくれた。

話を聞いて、傍にいることを許してくれる。

そんなの、家族だけだと思っていた。

でも、夢じゃないのだ。

どんなに不細工でも。目が覚めただけでかっこよくなれなくても、こんな僕でも。

いていいんだ―――

それから中里と別れても、まるで夢の中にいるように落ち着かなかった。

だけど、腕の中に残った大量の保冷剤と、空になったケーキの箱が夢じゃないって言っていて。


僕はそれだけで、とても幸せな気持ちになれたのだった――――





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