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笑いあう彼らを見て、僕は唇をかみしめて震えを抑えるので精一杯だった。
馬鹿にされて、悔しかった。
でも、僕が不細工なのも、学校に毎日めげずに来ているのも本当で。言い返すことなんてできないのだ。
じゃあ、僕が綺麗になれば満足なのか。学校に来なくなれば、満足なのか。
何度、そんな風に叫びそうになっただろう。何度、諦めてしまおうと思っただろう。
だけど、どんなに馬鹿にされて生きてきても、まだ諦めきれずに縋ってしまう僕が、一番見苦しいのも知っている―――
「……ま、腕の一本くらい大丈夫だよな?」
「入院してこいよ。そのまま転校してもいいぜ」
言われている言葉に、ぞっとした。
人は、ここまで残酷になれるのか。エスカレートしていく行為に、僕は血の気が失せるのを感じた。
腕を一本持ち上げられて、周りの奴らにおさえつけるように拘束される。
「―――先輩、邪魔です」
観念して目をギュッとつぶった時、ふと声がした。
恐る恐る顔をあげると、不機嫌そうな目と視線があった。
あまりに綺麗な顔は、怒りをたたえるとかなり迫力がある。僕は無意識に怯えてしまっていたが、それ以上に周りの奴らの動揺は大きいようだ。
「オマエ、中里か?」
「何だよいきなり。後輩が口出ししてんじゃねーよ!」
「いえ、スイマセン言うつもりはなかったんですが……あまりに邪魔でして」
そういうと、中里はまっすぐ僕たちの間を割り込むようにして歩いていってしまう。そうして、先にあった中庭のベンチに横になると、すぐに眠ってしまった。
あまりに突然の出来事に、みんな勢いを失くしてしまったようだ。僕を掴んでいた腕の力が弱まると、僕はそのまま地面に解放された。
「あほらし!覚えてろよブスカ!」
「次はねえからな!」
すっかり気がそがれてしまったようで、クラスメイト達はそういうとそのまま立ち去ってしまった。僕は茫然としつつも、痛む身体を押さえてなんとか立ちあがる。
「いた……」
歩くと体が痛くて、思わず顔をしかめたが、僕は中庭のベンチに近づいた。そこではとても綺麗な一年生が、さっきの喧騒をモノともせず寝ている。
「中里……慶太」
中里、とクラスメイトが言っていたのを思い出し、噂の一年生の名前を呟いてみる。
極度の人間嫌いで、1人を好む変人。とても綺麗な容姿をしているが、顔で選ぶ人間は大嫌いだと公言していて、近づきたくても近づけない孤高の存在だ。
「―――ありがとう」
寝ていて、聞こえないとは思うけど。
助けようとしてくれたわけじゃなくても、嬉しかった。だから気持ちを込めてそうつぶやくと、僕はそのまま家に帰ったのだった……
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