1
目が覚めたら、僕は今よりずっと、綺麗になれている。
そんな夢、何度見ただろう。
―――僕の朝は、多分学校の生徒の中で一番早い。
始発の電車に乗ると、真っ先に高校に向かい、下駄箱の掃除から始まる。
昨日あった教室のゴミが限界まで詰め込まれた下駄箱からゴミを取り出し、画びょうを敷き詰められた上履きを救出する。
それからその上履きを外で綺麗に磨き、履ける状態になったら履いて教室へ。
そうして、教室の僕の机の上を掃除する。
僕の机の上は、落書きや傷まみれで、どんなに頑張っても消えない傷がたくさんある。
それらは無視して、比較的消しやすそうなのから力を込めて磨く。
そうやっていると、大体生徒が来る時間になってくるから、僕は大人しくその席に座った。
誰も見ていないところでこっそりしたい、というのは小さな僕のプライドでもある。
少しもへこたれていないのだと、そういうそぶりだけはしていたい。誰よりも早く学校に行く僕を親は不思議がっていたけど、親に相談することもできなかった。
悲しませたくなかったし、これは僕の問題だから。
「おはよー」
そんなことを考えていると、柊君がやってきた。
柊君はクラスの中心にいるリーダー的存在で、僕の憧れだ。あの人はいつも眩しくて、あんなふうに笑っていられる彼のように明るい存在になりたかった。
「っ」
そんな風に考えていると、柊君と目があった。顔を隠すように長い前髪で僕の表情が見えていないことを祈っていると、柊君がこっちに向かってくる。
あぁ、どうしよう。絶対変に思われたよ。
「芹沢、おはよう」
そんな風に考えていた僕に、柊君はそう言って自分の席に行ってしまった。
―――挨拶、してくれた……っ
朝から柊君みたいな人に話しかけてもらえて、ちょっと涙が出そうになった。今日は星座占いで一位だったのかもしれない。
明日は、自分からおはようって言ってみよう。
柊君なら、『おはよう』って返してくれるかも。僕をいじめたりしない、優しい人だから。
「おい、芹沢オマエ昼休み生徒指導室な」
嬉しくて、天にも昇りそうな僕に、ホームルームの時担任はそう言ってきた。
その時の僕はよくわからなくて首をかしげたが、すぐにその意味を理解することになる。
そうして、彼と出会った―――
[ 45/140 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
TOP