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「オマエも、そう言えば馬鹿だよな」
「喧嘩売ってるんですね、分かりますよ」
本気でイラついている慶太に、俺は馬鹿にしたように笑って見せた。
捨てるにしても、納得のいく捨て方でなければ、それは『後悔』になる。
後悔しないように生きていこうとして、実際できる人間がどこにいるというのだ。未来の感情までコントロールできるのは、今を素直に生きた人間だけだ。
「オマエ、何でカメラが好きなの?」
そう問いかけると、慶太は少し意外そうな顔をした。そして、すぐにむっとした顔になる。
「昨日、覗いてましたね。趣味悪いですよ」
「セリにも昨日言われたから知ってる。で、何で?」
「何でって、控え目なところとか、想いやれる優しさとか、俺を顔で判断しないところとか…」
そうして、指折り数えていく慶太を見て、やっぱりこいつは馬鹿だと思った。
全部、ブスカに当てはまっていたというのに。
あの時、お前らは両想いだったくせに。
俺が欲しかった笑顔、全部全部、独り占めしていたくせに。
醜い嫉妬が出てきそうになって、俺はさらに続けようとする慶太をさえぎる。
「―――あっそ、もういいや」
「聞いといて何なんですか……。いっときますけど、邪魔しないでくださいね」
「しないけど。一つ忠告。『ブスカ』の面影追うのだけは、カメラに失礼だからやめろ」
そう言って立ち上がる俺を、慶太が一瞬目を丸くした後、睨みつけてくる。そこでブスカが出てくるとは思っていなかったんだろう。睨みつけてくる視線に、動揺が見えた。
俺は最後に小さく笑うと、そのまま食堂を後にした。
本当に馬鹿だ。ブスカも慶太も。
思いあって一緒になれなかったなんて―――
「―――でも、俺にとってはチャンスなんだ」
邪魔はしない。むしろくっついてしまえば邪魔が減って助かる。
実らなかった恋を嘆く悲運の恋人たちを、今更くっつけてやるほど俺は善良ではない。
醜く、ずるくとも、自分の願いを叶えるために、俺は世界中から嫌われてもいい。
ただ、あの笑顔が欲しくて。
がむしゃらに追い求めることの何が悪いっていうんだ。
ただ、あの笑顔のために。
結局、俺はあの笑顔にとらわれたまま、今でもあれ以上に魅力的なものを見つけられないでいる。
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