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結局、気づきたくない事実に気づいてしまい、その日は気持ちが落ち着かなかった。
ジンさんたちの話に耳を傾けながらも、どこかナオ君たちが気になってしまう。
女々しい自分がすごく嫌になりながらも、それをださないようにするので精一杯だった。
そんな風にして時は過ぎていき。食事を終えて帰ることになって、俺はナオ君と同じ道を歩いていた。
「今日楽しかったです!慶太いい人ですね!」
慶太、と名前で呼んでいる様子に親しさがうかがえて、ドキッとした。そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ナオ君はさらに続ける。
「連絡先も交換できましたし……セリさんとモデルの友達は二人目です!」
「そう……」
「はい!年が近いから呼び捨てでいいっておっしゃってくださって、飾らない、本当にいい人ですよね」
「うん、そうだね」
とても楽しそうなナオ君を見ていると、少しだけ心が元気になるような気がした。ナオ君の楽しい気持ちを分けてもらえて、ネガティブだった気分が浮上してくる。
「俺のことも名前で呼び捨てで呼んでいいんだよ?」
「えっ……セリ、ですか?」
「そういえば俺の本名知らないのか」
驚いたようにしているナオ君に、関係者には本名を教えていなかったことを思い出した。
柊君が、あまりにも『ブスカブスカ』呼んでくるので、すでに教えたような気分でいた。
「俺の名前、芹沢飛鳥っていうの。二人の時は、飛鳥って呼んでよ」
「はい……あ、飛鳥」
かーっと、照れたように一気に赤くなるナオ君に、俺はおかしくて噴き出してしまった。
それを見てナオ君がむくれていたが、そんな様子もおかしくてしょうがない。
「もう!意地悪しないでください!」
「い……意地悪じゃな…っ」
「もー!!」
すっかりつぼに入ってしまった俺に、ナオ君はむくれながら軽く叩いてくる。
その日の帰り道、俺たちはずっと笑っていたのだった……。
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