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大体は社長に見せてもらったものと変わらなかったが、少しだけ細かくなっている気がする。

「今回のコンセプトは、『男性目線で女性コスメのプロデュース』です。男性の女性に求めるモノを形にしていきたいと思っています」
「客層は、どれくらいを狙っているのですか?」

スライドを使って説明している浜口さんに、ジンさんが質問する。すると、浜口さんはすぐに口を開いた。

「二十代〜三十代と、社会人向けになります。みなさんの雑誌を買う年齢層ぐらいだと思ってください」
「じゃあ、俺たちの雑誌にも載せるのか」
「はい、そしてテレビコマーシャルも計画中です」

その言葉に、会議室がざわついた。モデルでテレビ出演経験があるのはこの中ではジンさんだけだ。思わぬサプライズだったに違いない。

「じゃあ、女性にプレゼントする男性にも購入しやすいデザインがいいと思います」
不意に、そう言ったのは柊君だ。他のモデルさんも賛同するように口を開く。
「年代層的にもあんまり派手なのは良くなさそうだよな」
「黒のシンプルなのとかいいかも」
「なるほど、参考になります。他に、何か意見は?」
「―――黒で思ったんですけど、黒髪に似合うコスメにしてみてはどうですか?」

浜口さんに向かって、俺は口を開く。ちょっと自信がなかったけど、思い切って続けた。

「働く女性向けということで、化粧崩れしにくいナチュラルメイクがいいと思ったんですが……まだビジネスの職場では髪色に厳しいところも多いですし、逆に、黒髪に似合うメイクができるコスメにしていくのはどうでしょう」
「なるほど、いい案かもしれませんね」

浜口さんはそう言うと、俺に向かって頷いてくれた。その様子にほっとしていると、ジンさんも賛同して褒めてくれる。

そうして、今日の会議は終わり、という頃になって、浜口さんは『さて』と口を開いた。

「実はこの企画、うちの方からもモデルを一般公募したんです。……中里(なかざと)くん、どうぞ」

そうして、やってきた相手に、僕は息をのんだ。柊君も驚きに目を丸くしている。

「―――中里慶太です。よろしくお願いします」


―――好きで好きで好きで。


せめて気持ちだけは知ってほしくて、伝えたかった想い。


『―――あんな不細工で気持ち悪いヤツ、誰が相手にするかよ』


「慶太(けいた)……」


浜口さんの隣で微笑むかつての思い人に、俺の胸は痛みを訴え始めたのだった……。





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