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やんわり断ろうとしたが、柊君はそれ以上追及してくることはなく、あっさりと身を引いた。
あまり本気ではなかったのか、と拍子抜けしつつも立ちあがると、そのままトイレを出ようとする。
すると、柊君もついてきて、さっきの空気が嘘のように霧散していた。
そうして、気がつけばうやむやのまま、その日は終わっていったのだった……。
「―――コラボ!?またですか!?」
―――次の週。事務所の方に呼ばれて行けば、またコラボの話が来ているという話だ。
しかも、今回もまた浜口さんのところらしい。
この前の浜口さんの電話はこのことだったのか、と俺は内心頭を抱えた。
おそらく、また柊君との撮影になるだろう。今度こそ逆鱗に触れなければいいが…。
「そ、またコラボ。浜口さんだっけ?えらくご執心みたいよ」
「そうですか………っ」
ガクリ、とソファーで肩を落とした俺に、女性の社長さんは企画書を差し出してきた。
「しかも、今回はプロデュースかららしいから、かなり長期の仕事よ。今のうちに大学の勉強しっかりしときなさいね」
「はい……」
うなだれながら差し出された企画書に目を通すと、どうやらまだ企画が始動した段階で、実際の販売は来年春以降になるらしい。
女性向けコスメを、男性目線でプロデュースする、という企画らしく、俺と柊君、そして数名のモデルが呼ばれていた。
「コスメなんて、分からないですよ…」
「そんなのあんたが普段撮影で塗ったくられてるのと大差ないわよ。今回はジンも参加するんだからジンに恥だけはかかせないでね」
「はーい……」
ジンさんは、MEN’s Willのトップモデルで、大学でも俺の先輩に当たる。本来、前回の時計の企画の際も、ゴールドの時計のモデルに抜擢されていたが、卒業論文の提出に追われて断ってしまったらしい。
ジンさんが断った手前、こちらの分が悪く、俺の参加がほぼ拒否権なしで決まってしまった、と後から聞いた。
ちなみにゴールドは柊君の所属する雑誌のナンバー2が担当することになったらしい。
企画書を見ればその人の名前も載っていて、かなり大がかりな企画のようだ。
というより、トップモデルの中に自分がいるのが違和感でしょうがない。
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