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通話を切ると、俺は一息ついた。

どうにも俺は電話は苦手で、まして浜口さんは目上の方だ。ついつい緊張してしまっていたのかもしれない。

「っ、」

そう考えていると、後ろから壁に押し付けられた。突然ことで悲鳴を上げることもできず、痛みに顔をしかめているだけだ。

「ひいらぎくん……っ」
「おっさんのラブコールは終わったのか?」

心底馬鹿にしたように言われ、俺は困惑した。さっきまでとは打って変わり、急に冷たい空気になって俺は息をのむ。

「ナオ君は……」
「待たせてある。別に二人トイレに行こうが不自然じゃないだろ?」

当然のようにそう言われ、俺はうつむくことしかできない。

それがさらに柊君の苛立ちを誘ったのだろう。肩を握る手の力が強くなった。

「痛―――――っ」
「何?あのおっさんに取り入って仕事もらったわけ?」
「そんなこと、してない……っ」
「でも直接電話なんておかしくね?見る人によってはそう見えるんだけど」

ギュッと強く握られて、肩が熱くなる。きっと真っ赤になっているだろう。

「オマエみたいな新人があんなデカイ仕事に出てくるなんて何か裏があると思ったんだが…あのオッサンゲイだったのか」
「浜口さんはそんなことしてない!」
「へぇ?じゃあお前がたぶらかしたんだ?」
「して、ない……っ」
「じゃあ、なんで?」

何でかなんて、俺が聞きたい。

俺を選んでくれている浜口さんも、スタッフさんも。俺を気に入ってくれているけど、『僕』は誰かに選ばれたことなんて一度もない。

俺を選んでくれる人の、期待にこたえたい。それでも、ちゃんとできているのかさえ曖昧で。

カメラ映りだって、俺以上の人が出てきたら真っ先に俺は捨てられてしまうんだろう。
そんな想像が、とても怖い。

―――何かを得ることは、失う恐怖との戦いではないかと思えるほどに。

応えない俺に、柊君は何も言わなかった。俺はそれを気にすることもできなくなるほど、血の気が失せていた。





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