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―――『僕』は昔から甘いものが大好きで、3時のおやつが一番の楽しみで。
だけど、悲しいかな俺でも苦手なスイーツがあった。
チョコレートだけはどうしてもだめで、チョコレートを食べた後は体中に発疹が出て、とてもじゃないけど人に会えるような状態じゃなくなる。
普段の不細工の度を超えた不細工さは、俺のコンプレックスでもあった。
アレルギーは、簡単になおるものではない。原因の物質に出来る限り近づかないようにすることが、俺に出来る唯一の策で。
『―――いらない』
あの時、俺は言葉が少なかったことを恥じた。
チョコレートアレルギーで食べられないのだ、気持ちはとてもうれしいのだ、と言葉を重ねればよかった。
俺じゃなくて、他の人にあげてほしい。俺は食べられないから。
そんな気持ちを込めても、口にしなければ意味がないのだ。
だから、俺は戒めの意味を込めて、柊君に投げつけられたチョコケーキを後でこっそり食べた。
1人部屋にこもり、涙をこぼしながら、それでも食べた。
次の日は学校を休むことになってしまってもかまわなかった。
今度、お礼の気持ちを持って、柊君に会いに行こう。
―――そうして会いに行った学校では、いじめがエスカレートしていて、とても接触できるような状態じゃなかったけど―――
「―――セリさんっ」
「……ナオ君?」
「よかった………」
目を覚ますと、そこは病院の病室だった。
すぐにナオ君がナースコールで主治医を呼んでくれて、事情を説明してくれる。
―――アナフィラキシー。
それが俺の症状らしい。長くチョコレートに触れていなかったせいもあるのか、普段よりも大きくアレルギー反応が出てしまい、重症化してしまったようだ―――そう主治医さんは教えてくれた。
俺はとりあえず一日入院して、明日の検査で異常が出なければすぐにでも退院できるそうだ。
それを聞いてほっとしていると、主治医さんが『お大事に』といって病室を出ていく。
主治医さんのいなくなった部屋で、ナオ君がポツリとつぶやいた。
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