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まずい、と俺はさっと血の気が引いた。柊君を探すと、慌てて彼に向かって口を開く。
「ごめん、今日の約束またにしてくれ。埋め合わせは後で必ずするから」
「はぁ?」
「じゃ、お先に失礼しますっ!」
「「「あれっ、セリちゃんっ!?」」」
他のスタッフさんたちが不思議そうにしているのにもかまわず、俺は急いで現場を後にする。
廊下を走って控室に戻ると、はやる気持ちのままに急いで荷物をまとめる。
はやく、はやく帰らないと―――っ
「あっ、セリさん!お疲れ様です!」
控室を出て、エレベーターの前に行くと、ナオ君がいた。どうやら帰らずに待っていてくれたらしい。
「よかった、俺もさっき来たんで入れ違いにならないか不安だったんです」
「ナオくん……っ」
ナオ君に駆け寄ろうとして、俺は妙に息苦しいことに気付いた。
走ったせいもあるかもしれないが、俺だって腐ってもモデルである。体力をつけるために毎日ランニングをしていて、ちょっとやそっとでは息切れなんてしない。
おかしいことに、ナオ君も気がついたのだろう。ナオ君は不思議そうに俺に近づいてくると、俺の額に手を当てた。
「風邪ですか?辛そうですけど―――」
「なっ、はぁ、んでも、な―――ひゅっ、はぁっ」
なんでもない、と言いたかったけど、息が抜けるばかりで言葉になってくれない。
ひゅーひゅーと喉が鳴るほど息苦しくて、俺は思わずその場にうずくまる。
「なっ!!セリさんっ!セリさんっ!!」
ナオ君が慌てたように俺の背中を撫でる。あまりの苦しさにナオ君の服をぎゅーっと握りしめて、俺はナオ君にすがった。
「セリさんっ!しっかりしてください!セリさん!」
「おいっ!どうした!」
「セリさんが――――っ」
騒ぎを聞きつけたのだろう。スタッフさんたちがやってきて、ナオ君が悲鳴に近い声で俺の名を呼ぶ。
その声すらも遠くなってきて、俺は最後の力を振り絞って顔をあげた。
「ひゅ、はぁ、あっ」
「セリさん!」
俺の視界に最後に映ってきた―――驚いたような柊君の表情を最後に、俺の意識はブラックアウトした―――。
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