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「あのっ、お疲れ様です」
しかし、俺が何かを言うより早く、ナオ君が立ちあがって挨拶をした。
柊君は一瞬怪訝な顔をしたものの、すぐに目を丸くする。
「スイマセン、前の撮影が立て込んでまして…もし気になるようでしたら、移動しますので」
「いや……俺が移動するからいい」
ナオ君がスタッフの顔で申し訳なさそうに言うと、柊君は逃げるように部屋を出て行ってしまった。
「……今の、モデルのヒイラギさんですよね?やっぱりかっこいいし、譲ってくれるなんて優しいな」
バタン、と扉が閉じると、驚いたようにナオ君が呟いた。俺としては、柊君が嫌みの一つも言わずに部屋を出て行った事の方が驚きだった。
「じゃ、食べちゃいましょう。ついでに、聞いてほしいことがあるんです」
「うん、いいよ」
気を取り直したようにナオ君が言うと、俺たちはシュークリームを食べ始めた。
『僕』の大好きなスイーツの一つであったシュークリームは蕩けるように甘く、久しく甘いものを食べていなかった俺はまたその魅力に惚れてしまいそうになる。
「んー、おいしい!」
「そうだね。…で、話って何なの?」
「あ、はい!見てほしいものがあるんです」
そういうと、ナオ君はいったんフォークを置き、ボストンバックからあるものを取りだした。
「…これ、師匠が古いのでよかったら、って譲ってくれたんです」
「かっこいいね……」
出て来たのは、見事な一眼レフだった。手に持てばずっしりと重く、黒い光沢が何ともシックである。
写真家を目指すために弟子入りしているナオ君としてはこれ以上なく嬉しい贈り物だろう。
「セリさんに見せたくて、昨日とてもわくわくしてたんです」
「うん、本当にすごいや。良かったらこれで俺のことも撮ってよ」
「もちろんです。もとからお願いするつもりでしたから」
誇らしげに笑うナオ君に、俺もつられて笑ってしまった。
「良かったら今日にでもとろうよ。良かったら、一緒に」
「俺は被写体はやりません。……でも、撮影が終わるころにちょっとだけ、いいですか?」
「もちろん。スーツの俺なんて貴重だからね?」
「嘘ばっかり」
くすくすと楽しそうに笑うナオ君に、心が軽くなるようだった。
ナオ君は自分の夢にひたむきで、いつでもキラキラ輝いている。その笑顔に、きっとこれからも救われていくんだろう。
俺はそんな確信を感じながら、撮影が始まるまでナオ君と話していたのだった……
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