1
過去の過ちは、過去が償うことができない。
償うことができるのは、今の自分だけなんだ―――
憂鬱な気持ちだとしても撮影が延びることはなく。
ついに陽が明けて朝が来て、撮影の時間になってしまった。
モデルの意地で睡眠だけはとったが、とても食事を出来るような気分ではなく。空腹に痛むお腹を抑えながら入ってきた俺に、ナオ君は首をかしげた。
「…どうかしたんですか?」
「ん、大丈夫。ナオくん今日は一緒なんだね」
「俺は機材運びで来ただけです。撮影の見学はできますが、帰りは別になると思います」
「そっか」
心配そうなナオくんに苦笑しながら、俺は休憩室で息を吐いた。
少し前の撮影が押しているらしく、予定時間になっても撮影が開始されることはなかった。
スタッフたちは散り散りに休憩を取りに出て行き、今はナオ君と二人だけである。
「―――あ、そんなセリさんに差し入れちゃんと持って来たんですよー!」
良かったら食べてください、と差し出されたのは、小さな箱だった。何かと思って蓋を開ければ、シュークリームが二つ、可愛くデコレーションされて入っていた。
「約束通り、もってきちゃいました。良かったら食べてください」
そういってにっこり笑うナオ君は、お世辞にも綺麗な顔ではなかったけど、とても魅力的だった。
機材を運ぶのに邪魔だったのか、前髪をとめているため顔が見えるからかもしれない。
ナオ君と『僕』の違いは、こういうところだ。
容姿に腐りながらも、自分を見失うことがない。どんなに理不尽だと感じていても、笑顔を絶やすことはない。
「―――うん、ありがとう。今ここで食べちゃおうか」
「はい」
にっこりと笑うナオ君に、胸がギュッと切なくなった。最近の俺は感傷的で困る。
そういって、フォークを受け取った時、ガチャリと休憩室の扉が開いた。
「―――――――っ」
そこにいたのは柊君で、俺とシュークリームを見比べて露骨に嫌そうな顔をした。
最悪の組み合わせだ、と俺は冷や汗をかく。
[ 19/140 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
TOP