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「あ……お疲れ様です」
ちゃんと言えていたかは分からないが、なんとかそれだけを口にするとその場を立ち去ろうとする。
「はい、お疲れ様」
すると、柊君は何事もなかったかのように笑いつつ、そういってくれた。正直予想外の反応だったが、もう一度深く頭を下げて浜口さんのところへ向かう。
「―――なんて、いうわけねえだろ『ブスカ』」
しかし、すれ違いざまにそう言われ、俺はさっと血の気が引くのを感じた。
―――き、気づいて…っ
整形したけど、『僕』の面影は残すようにしていた。なので、ある程度『僕』と仲が良かった人は気づくかもしれない、と覚悟はしていた。
だけど、あまり話したこともない、まして嫌われていた相手にいわれ、俺は驚いてそのまま振り返った。
「『セリ』だっけ?ちょっと控室こいよ。話しようぜ」
「――――はい」
柊君にいわれ、俺は観念して頷いた。
それは、俺への死刑宣告のようにすら感じられ、逃れる術がないことを思い知る。
柊君は俺が逃げないようにさりげなく腕を掴むと、メイクさんたちに『自分で出来るから大丈夫』と笑顔でいって、体よく人払いをしていた。
俺はその間も憂鬱で仕方なく、うまく顔をあげることもできない。
「おら、こいよ。――どうせ撮影は機材の準備があるから30分後だ。じっくり話そうじゃねえか」
「…………」
「ちっ、相変わらずイラつく野郎だな」
俺が何も言えないでいるのを、柊君は露骨に嫌な顔をして舌打ちをした。掴まれていた手は乱暴に振り払われ、控室に押し込められるようにしていれられる。
「整形したって、声は変わらないからな。……雑誌を見たときまさか、とは思ったが、やっぱりお前だったとはな」
「……柊君」
「気安く呼ぶなよ。―――あぁ、震えちゃってるのか」
心底馬鹿にしたような言葉に、俺の手が震えていることを知った。指先は冷え切って感覚がなくて、自分のものじゃないみたいだ。
「―――正直さ、オマエには幻滅だよ。いくらいじめられてたからって簡単な気持ちで顔整形してさ。…なぁ、親からもらった顔遊んで楽しかったか?」
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