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―――彼と話した記憶は、ほとんどない。

彼が向けて来たのはほとんどが罵声で、クラスを仕切っていた人気者の威力は絶大だった。

すぐにクラス中の人にいじめられるようになり、クラスが変わっても散らばったクラスメイト達がそのクラスで俺の話をするから、拡散する一方だった。

だけど、本当は誰よりもいい人で、人気者なのには理由がちゃんとあって。

誰とでも打ち解けられる底なしの明るさだとか、間違ったことはきちんと受け止められることとか、情に厚いのは誰もが知っていた。


そして―――その優しさは僕にも降り注いでいたのに。


『―――なぁ、オマエもこれ食うか?』

『……いらない』


でも―――先にその優しさを突き放したのは、俺の方だったんだ。




―――急に過去の記憶がよぎって、俺は言葉を失う。

それを浜口さんは見いっていると感じたのだろう。時計のことについて詳しく教えてくれた。

「彼の時計はシルバーなんだ。クールなデザインに、ストーンを散らした遊び心満載の文字盤。彼の時計の裏盤にだけ彫刻があってね、追加でさらに自分好みに彫ることもできるんだ」
「……そうなんですか」

浜口さんの説明を聞きながら、俺はずっと柊君を見ていた。

知らなかった。彼もモデルになっていたなんて。

一年遅れた俺と違って現役の彼は、相変わらず輝いていた。

フラッシュの光に負けずとも劣らないまばゆい笑顔。均整のとれたスタイルは、高校の時に比べてさらに筋肉質になったかもしれない。髪色も明るくなっていて、アッシュブラウンの髪が彫りの深い顔立ちにとてもよく似合っていた。

でも、涼しげな目元にある泣きボクロとか、笑うと出来るえくぼは変わっていなくて、やはりあの柊君なのだと思い知る。

「―――はい、じゃあお疲れ様です」

俺が言葉を失くしているうちに撮影は順調に進み、ついに撮影が終わってしまったようだ。

それに合わせて、スタッフの方が大きく移動し始め、本格的に俺が邪魔になってきた。

どうしようか、と所在なくしていると、柊君と目が合う。





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