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「…本当にね、上とかけあうのはつかれたんだから。慶太くんもごり押ししてくるし」
「え?」
「こっちの話。今日一日限定だからね」
「真っ先に感想俺に送ってくださいね!」

そんな風に話していると、慶太が横から出てきてそういう。俺は訳が分からなくて首をかしげたが、それよりも早く柊君が俺を引っ張った。

「用が済んだなら帰るぞ」
「ちょ、柊君…」
「信じてるとはいえ、気分はよくないんだからな」
「もう、子供みたい」

エレベーターに押し込まれながらそう言われ、呆れたようにクスクス笑いながら俺はそういった。

柊君も自覚があるらしく、少しバツが悪そうにしていた。

俺たちはスタジオを出ると、駅前通りに向かって歩き始める。今日はお互いに大学がないので、どこかでお昼を食べて帰ることにしていたのだ。

「お昼、どうする?」
「そうだな、気分的に、がっつりいきてえな」
「じゃ、あそこのステーキ屋さんにする?」
「そうだな。―――飛鳥、上見てみろ」
「え――――――」

そんな会話の途中、いきなりのことに驚きつつも顔をあげて―――泣きそうになった。

「どうして……っ」

駅前の、巨大ポスター。そこにあったのは―――俺の写真だった。

『ありのままの君は美しい』―――そう書かれた文字の横に俺の顔があって、俺は思わず目を疑ったほどだった。

「一日限定って、こういうことかよ…」

呆れたように言う柊君に、俺は少し笑ってしまう。

これは後日の話だが、このポスターはシークレット扱いされ、駅前の巨大ポスターと、駅構内の小ポスターとして発売日のみにしか使われなかったそうだ。

そして、セリ最後の作品として、高評価を受けることになる。

「どうしよう、幸せ過ぎて、死んじゃいそう」
「まだ早えよ。これからもっと幸せになるんだから」
「そうだね」

柊君に何でもないように言われ、また嬉しくなってしまって、俺は大きく頷いた。

そうして、ゆっくり一歩を歩き始める。


―――俺の選んだ道は、不正解かもしれない。多くの人が、俺の生き方を否定するかもしれない。


でも、俺の幸せだけは、どうか否定しないで欲しい。


―――俺は今、『芹沢飛鳥』として、幸せの一歩を歩み始めたのだから。





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