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―――それから数日。ついに撮影の日がやってきた。
普段とは違うスタジオに案内された後、時計会社の方と企画コンサルタントの方が挨拶に来て下さった。コンサルタントさんは浜口さんというらしく、デザインの違う三種類の時計を示して説明をしてくれる。
「――今回のコンセプトは、『クラシックな自分らしさ』です。時計のデザインはこちらになります」
見せられた時計は、シルバーとゴールド、ピンクゴールドの三種類だった。
三者三様に特徴があり、俺がつけるピンクゴールドは他のよりもずっと細身である。
文字盤のローマ数字の横に一つずつ石がちりばめられており、鮮やかな中にも品がある作品で、俺は思わずそれをマジマジと観察してしまった。
「…ベルト部分の付け替えも可能です。今回、セリさんのスーツには革ベルトの方が似合うでしょうね」
「はい、俺もそう思います」
浜口さんの言葉に頷きながら、腕に時計をつけてもらって、妙に緊張してきた。
いい商品だと分かるからこそ、手が抜けない。
浜口さんは俺の様子を確認すると、椅子から立ちあがってこういった。
「さて、早速ですが撮影お願いいたします。時間の都合でまだ先の方が撮影なさっているのですが…良かったら見学に行きましょう」
「はい」
浜口さんの言葉に従って、俺はスタジオに向かって歩き始める。浜口さんはとても気さくに話してくれて、年上の余裕というのだろうか、とてもリラックスして話すことができた。
「―――それにしても、セリさんは本当に僕のイメージ通りなんです。このピンクゴールドをつけてもらうために、相当頑張ってしまいました」
「そんな……」
「本当ですよ。ピンクゴールドは細身で、繊細な方に向けて作っているので。他の二つも素晴らしいモデルさんを当ててもらえて感激しているんです」
やけに熱の入った力説をふるう浜口さんは、広告課長らしい。偉い職についている割には若いので、相当出来る人なのだろう。
「ほら―――あそこにいるモデルさんです」
「――――――っ」
そんな彼に引っ張られるようにしてスタジオに入り、今まさに撮影をしているところを見せられて、俺は言葉を失った。
『―――オマエ、性格もブスなんだな』
『最低。オマエ嫌われてもしょうがないよ』
『―――俺、オマエが一番大嫌い』
「……なんで、柊くんが………っ」
―――そこにいたのは、『僕』のかつてのクラスメイト、柊正人(ひいらぎまさと)くんだったのだ。
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