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飛鳥なら、そういうと思っていた。けれど、喉がひきつれたように言葉が出てこない。
もしここで、飛鳥を見送ってしまったら。
飛鳥は、もう俺のところに帰ってこないんじゃないか。
昼間の睦まじい様子がフラッシュバックする。
飛鳥が大事で、綺麗で、欲しくて。
それなのに、また、慶太のところに行ってしまうのか。そして、俺はそれを―――見送るのか。
ちっぽけな、くだらないプライドのせいで。
「――――っ」
衝動だった。
俺は飛鳥を抱きしめると、離さないというように力を込めた。
もう、なりふり構ってなんていられないし、かっこつけることさえできなかった。
昔から、飛鳥には引っかき回されてばかりで、いい人でいられたことなんかないじゃないか。
何を今更、いい人ぶろうとしていたんだろう。物分かりのいいふりをして、俺は傷つくことが怖いだけなのだ。
―――結局、自分の気持ちすら口にできない自分が、一番滑稽じゃないか。
「柊君…?」
「――――行くなよ…っ」
不思議そうな飛鳥の言葉に返した俺の声は、情けないくらい震えていた。
どうして、我慢できていたのだろう。伝えたい気持ちが溢れて来て、涙が頬を伝った。
こんなにも、隣に立てないことが辛くて寂しい。
―――傷ついても、自分の気持ちを伝えられないことが、馬鹿らしくも悲しい。
だから俺は、口にするんだ。
「好きだ……」
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