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ふっといたずらっぽく笑うと、慶太の手をそっと握る。慶太は泣きそうになりながらも手をおろし、まるで迷子の犬のように不安げに俺を見つめてきた。

「―――今更そんなしおらしくしたって、過去は消えねえだろ」

そんな時だった。まるで挑発するように柊君が口を開き、あざ笑うようにそういった。

「……………何?」
「オマエ、そうやって過去を償ってるつもりか?オマエみたいなのみてると、ほんと滑稽なんだよな」
「……そんな風にしか物事を見れないなんて、可哀そうな人ですね」

さすがの慶太も我慢ならなかったようで、びっくりするくらい低い声でそういった。一触即発の雰囲気に、俺はますます身を固くする。

「飛鳥の優しさに甘えて―――オマエに浜口さんを責める権利はあるのか?そうやって、飛鳥に頼りきりなのはオマエの方じゃないか。いつまでも年下で、子供で、本当どうしようもねえ奴だよな」
「―――――っ!」

その言葉を聞いて、慶太が動いた。俺の頬を撫でた手が拳の形を作った時、俺は悲鳴を上げるように叫んだ。

「やめて!慶太っ!」

―――ガッ!と鈍い音がした。

そして、ぐわんと頭が揺れる。

慶太が放った一撃は俺の頬に当たり、そのまま倒れてしまった。くらくらして、目の前には星が飛んでいるように感じる。

じんじんと熱を持ち始めたそこを手で押さえながら滲む涙をぬぐうと、俺はなんとか立ち上がる。

慶太も柊君も、茫然としていた。慶太に至っては、顔を真っ青にして、震えるようにしている。

「……あ、俺……っ」
「慶太、いいから。今は頭冷やして」
「ごめんなさい―――――」

慶太はそういうと、俺の頬に触れようとした。俺が甘んじてそれを受けようとしたとき、柊君が俺を引っ張った。

「頬冷やすぞ。来い」
「でも、慶太…っ」
「ほっとけ。頭冷やす時間が居るだろ」

短く言われながらぐいぐいと腕を引っ張られ、俺は引きずられるようにしてエレベーターに押し込まれる。

その最後にみた、慶太は見るからに落ち込んでいて。


―――その姿が頭から離れなくて、俺はエレベーターの中にいても心ここにあらずという状態だった。





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