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Side 柊
―――柊君は、俺にとってとても大切な人だよ。柊君はどうかわからないけど、俺はそう思ってる。
飛鳥にそう言ってもらえて、嬉しいはずだった。
でも、嬉しくなかったのは、慶太の一言があったからだ。あの一言があったから、気づいてしまったのだ。
「俺の気持ちは、伝わってなかったのか……」
俺は嫌いな奴とは仲良くしないし、自分から望んで飛鳥といるのに。飛鳥は『柊君はどうかわからないけど』と言ったのだ。
ほんの一ミリの好意すら、感じてくれていなかったのだろうか。
アイツはびっくりするくらい控え目で、奥ゆかしい奴で。
予想や自分勝手な意見を口にしたりはしない奴だが、それでもむなしかった。
散々いじめていた過去を持っていながら、今更こんなふうに手のひらを返した俺を、飛鳥は疑っているのかもしれない。
あるいは、無意識に俺は試されているのかもしれない。
「飛鳥はそんなことするヤツじゃねえし…」
そこまで分かっているから、答えは簡単だった。
飛鳥は、慶太の言うとおり不安なのだ。
不安だから、俺の気持ちが分からないけれど、と前置きをする。嫌われていようが嫌われていまいが、構わないのだと。自分の気持ちは変わらないのだと。
全身で、俺への気持ちを表現してくる。
そんな飛鳥が不器用で、愛しいと思う。だけど、そんな愛しい存在からの不安が溢れた一言に、俺は何も言えなくなってしまった。
飛鳥が一生懸命話しかけてきても、それにこたえることすらできなくて。
自分の不甲斐なさに押しつぶされそうだった。
それからの撮影は、どこかうつろで。アヤトさんにからかわれながら、唯一飛鳥と一緒に仕事ができるコラボ企画を進めようとスタジオに向かった。
しかし、その日のスタジオはどこか騒々しくて、殺伐とした空間に俺は驚いた。随分スタッフとも仲良くなったので、1人のスタッフを捕まえて声をかけた。
「こんにちは」
「あ、ヒイラギ君、お疲れ様」
「何かトラブルですか?」
「あぁ、それがね」
スタッフの1人はそういうと、内緒話をするように声をひそめた。
「―――セリさん、降板だって」
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