10
「オマエは?カイロねえの?」
「……あ、うん。まだいいかなって思ってたら買いそびれちゃって」
「だから寒いんだろうが」
柊君は呆れたように言うと、俺の手をギュッと握ってきた。俺が驚く間もなく、柊君のポケットに突っこまれてしまう。
「え……っ!」
「この先の自販機までな。コーンスープぐらい奢ってやるよ」
「でも…」
そんな奢るなんて、と続けようとすると柊君に思いっきり睨まれた。
黙って奢られとけ、と視線で言われ、俺は大人しくそのまま隣を歩き始める。
柊君の隣は、温かかった。
ポケットに入っている手からも体温が伝わってきて、腕の先からどんどん温かさが流れ込んでくるようだった。
必然的に距離が近くなってしまうこともそうだけれど、俺は柊君の迷惑にならないように歩くので精一杯だった。
そうして路地を歩いていくと、赤い自販機が目に入って、俺たちはそっと手をはなした。
「ほら」
「……あ、ありがとう」
そうしたら柊君が自販機でコーンスープを買ってくれて、俺はそれを受け取る。手を温める温度に目を細めながら、そっと頬にあててみた。
「温かい…」
「さっさと飲めよ」
「うん、ありがとう」
柊君に急かされ、俺はそっと缶を開ける。
その時、ふっと視界が暗くなって俺は顔をあげた。
「―――――っ」
するとそのまま温かいものに包まれて、俺は目を丸くする。柊君に抱きしめられて、俺は戸惑いながらも口を開いた。
「柊君……」
「オマエは、何でもしようとするよな」
柊君は、短くそういった。その言葉に滲む悲しげな感情を感じながら、俺は小さく頷く。
「…そうかもね。俺のことは、俺がしなくちゃだから」
「俺のいないところで、誰かに傷つけられたり幸せになったりしてんのかと思うと、ムカつく」
「………もしかして、慶太のこと?」
俺は何となくそんな気がして、何気なく聞いてみた。すると柊君は黙ったままで、無言が何よりの肯定だった。
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