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「セリちゃんこっち向いてー…そうそう、次視線だけこっちー、はい、いいよー」
――俺がモデルを始めて半年が経った。
モデルの仕事は好調で、販売された雑誌の売れ行きも上々らしい。
他のモデルさんに比べて女性ファンが多いらしく、送られてくるメッセージの数に驚かされたものだ。
MEN'S WILLは男性雑誌の中で1、2を争う人気雑誌で、正直ここまで順調なモデルは珍しいらしい。
だけど、驚き混じりの応援が、俺にとって励みになるわけで。
「――はいっ、お疲れ様っ」
「お疲れ様でしたー」
今日もつつがなく仕事を終え、着替えつつ一息ついていると、契約した会社の人が俺のところにやってきた。
「セリ、ちょっといいか」
「大丈夫ですけど…言ってくださればすぐに会社に向かいましたのに」
「すまない、急ぎでな」
普段らしからぬ様子に首を傾げつつも、椅子を勧めて話を聞くことにした。
何事か、と思っていると、相手が口を開く。
「――セリを指名で、緊急コラボ企画が来た」
「っ」
俺が驚く間もなく、会社の人は興奮したように続ける。
「すごいことだぞっ。相手は『aria』のトップモデルだ。今度出す時計の撮影に、相手指名されたらしい」
ariaとは、同じメンズジャンルの雑誌で、いわゆるライバルだ。
しかし、最近ではあまり対抗するようなこともなく、年に一回はコラボ商品を出したりしている。
その相手から指名された――そのことに俺はただただ驚くばかりだ。
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