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「―――――あぁ?」
いきなりの言葉に、俺は思わず慶太を睨みつけた。慶太はその視線にひるむことなく、さらに続ける。
「飛鳥先輩は、きっと『俺なんかを相手にしてくれるはずがない』って思ってます。高校時代に冷たくされて、仲は回復したとはいえ、飛鳥先輩は不安なんです」
「はぁ?オマエに何が分かるんだよ」
「分かります。――――先輩は、言葉にしないから」
ガンッ!
俺は横の壁を殴って慶太を黙らせた。慶太が暴力ぐらいにビビることがないとは知っていたが、これ以上聞きたくはなかった。
「俺はありがたいですけど、先輩の不安そうな顔が見てられないんですよね。さっさと玉砕してくださいよ」
「――――オマエがな」
俺らはそれ以上は会話をせず、慶太はそのまま部屋を出て行ってしまった。
1人残された部屋の中、俺は静かに息を吐く。手近に座ったソファーにもたれて、そのまま沈んで行ってしまいたかった。
「―――今更、どんなツラさげて『好きだ』なんて言えるかよ…」
『―――オマエは図太いよな。あれだけ冷たくしといて、まだ好きだなんて言えるんだから』
それは、俺にも言えるセリフだ。
高校時代、散々自分のストレスのはけ口にして、酷いいじめをしていた俺に、飛鳥は相変わらず微笑む。
それが愛しくて、苦しかった。
好きだと言えば、ひょっとしたら飛鳥は俺のことを見てくれるのかもしれない。だけど、昔の俺が邪魔をするのだ。
散々いじめといて、好きだなんてムシがよすぎやしないかって。
飛鳥に甘えているのは、俺も同じだ。結局、慶太に言った暴言は全部、俺に跳ね返ってくる。
慶太みたいに昔からの信頼もなく、飛鳥の心を揺さぶれない俺に、勝ち目は昔からないのかもしれない。
でも、失いたくない。誰かのものになるのを我慢できない。
「……ちくしょー、会いてえな………」
飛鳥に会うたび、愛しさが溢れてくる。その瞬間の自分が一番マシだと思うし、心が凪いでいくのを感じるのだ。
「仕事終わってから、待ってみるか…」
プライドばかり高い俺が、実はこんなに弱気なんだって誰が思うだろう。
それでも、俺は仮面をかぶり続ける。
俺の弱いところは、飛鳥関係だけなのだ。だから、俺だけが知っていればいい。
―――それで、飛鳥の弱いところも全部受け止められるなら、俺は何にだってなってやる。
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