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「先輩、泣かないでよ。俺、勘違いしちゃいそう」
「うん…っ」
冗談めかして言われ、俺は小さく笑った。慌てて目をごしごしこすって、涙を止める。
「一個だけわがまま言わせて?」
「何?」
「キスさせて。―――両思いだった飛鳥先輩に。それと、これからの宣戦布告を、セリさんに」
慶太はそういうが早いか、俺を引き寄せてそのまま唇を重ねてくる。
俺たちは、すれ違ってばかりだったけど。
―――両思い、だったんだ。
じわじわと慶太の言葉が心に沁み込んで、キスを甘いものにしていく。もう二度とあえないと思っていた思い人に、やっと正面から向かい合えた気がした。
「ちょ、けいた」
「もう一回だけ」
「んぅ」
慶太は舌はいれてこなかったけど、たくさんの想いをぶつけるように何回もキスをしてきた。
それでも、今だけだと思うと、まぁいいかと思えてしまう。
そんな風に思えてしまうあたり、だいぶ俺は慶太に甘い。
あと一回、もう一回が何度も続いて、空がどんどん明るくなっていく。結局、解放されたのはお互いの唇が真っ赤になって痺れたころだった。
それがおかしくて、俺たちはまた笑いあった。
「慶太、俺しばらくはナオ君一筋だから」
「いい度胸ですね。すぐに振り向かせて見せますよ」
「どーだか。ナオ君泣かせたのは覚えてるんだからね」
「それを言われると耳が痛いですけどね…」
そういいあって、俺たちはどちらからともなく笑いあう。
それから、俺たちは公園を出て別れた。
今までのような重苦しい雰囲気でも、アンバランスなあやふやな関係でもない、新しい関係を見つけた。
昔と似ているようで、似ていない。それでも、幸せな気持ちは何倍にも膨れ上がっていて、自然と笑みがこぼれてくる。
朝焼けの黄金の世界の中で、俺たちはまた、新しい一歩を踏み出したのだった…。
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